「最初はなんとなく始めたドラァグクイーンでしたが、今ではプロとしてやりがいを感じています」
フランスでドラァグクイーンとして働く日本人のマダムワサビさん。美しいライバルに囲まれながら、ときには自身の至らなさに落ち込むことも。それでも彼女がドラァグクイーンとして生きることに「喜び」を感じる理由とは?(全2回の2回目/前編を読む)
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ドラァグクイーンとして生きる葛藤
――もともと音楽留学のためにフランスに来られたので、ドラァグクイーンをしつつも、音楽院で声楽の勉強もされていたんですよね。学校の先生はそのことを知っていたんですか?
ワサビ はい。演技の授業のときにハイヒールでのきれいな歩き方を教えていただいたこともありました(笑)。
――当然ですが、オペラのときには男性の役をされていたんですよね?
ワサビ もちろんです。でも、オペラは女たらしだったり、厳格な父親だったり、マッチョだったりと自分の性格とはかけ離れている役ばかりだし、なにより西洋人という設定で、外国語で歌うので、役柄の中に自分のアイデンティティーと重なるものを見出せなかったんです。
とはいえ、オペラ歌手は決められた役を演じるもの。自分の個性を出すにはどうしたらいいんだろうと思っていたのですが、女装して歌うマダムワサビになったときに「こっちのほうが自分らしいな」と思ったんです。
それに、オペラの世界では、白人の役を黒人やアジア系が勝ち取るのはとても難しいこと。そういう世界で無理やり生きようとするよりも、自分自身であるワサビを演じることの方が自然で楽しかったんです。
—――戸惑いはなかったですか?
ワサビ ありましたね。自分がお世話になった出身大学や、日本で指導してくださった先生方から「せっかく留学したのに女装なんてして、一体何をしに行ったんだ」とがっかりされるんじゃないかと、最初はすごく怖かったです。
だからこの活動を始めたことは特に仲の良い子以外には話していませんでした。迷惑をかけたら嫌だし、自分でもはじめからそこまで真剣にドラァグクイーンをやっていたわけではなかったので。でもだんだん本腰を入れるようになりました。