文春オンライン
ライバル校から異例の「応援」も…能登を背負った「日本航空石川」甲子園を彩った奇跡の3校合同演奏

ライバル校から異例の「応援」も…能登を背負った「日本航空石川」甲子園を彩った奇跡の3校合同演奏

日本航空石川センバツ出場秘話#3

source : 週刊文春Webオリジナル

genre : ライフ, 社会, スポーツ, 教育

note

 音楽監督を務める航空石川の藤井一弥さんは、合同練習を終えてこう語っていた。

「航空石川の応援イコール能登の応援のつもりでやります。生徒たちにも、うちの学校が立ち上がることに意味があると伝えてきました。音楽は、怪我を治すことはできなくても、心を治す力があると信じています。誰かの心が折れている時、音楽を通じて元気にすることがきっとできます」

 この日の合同練習後には、樋口さんと彦根市の計らいによって、同市のマスコットキャラクター「ひこにゃん」がサプライズで登場。生徒たちに笑顔をもたらした。

ADVERTISEMENT

近江高校関係者のはからいでサプライズ登場したひこにゃん Ⓒ文藝春秋
合同練習の光景 Ⓒ文藝春秋

 2日連続の雨天順延を経て、迎えた3月25日午前9時。時折、小雨がぱらつく曇天の下、航空石川対常総学院の試合が始まった。

 藤井さんの指揮のもと、航空石川の攻撃時には定番曲の「航空オーレ」、空にちなんだ「浪漫飛行」など、迫力ある演奏と力強い掛け声が甲子園にこだまする。

「常総学院さんの応援もすごい。負けないようにしたい!」

 攻守交替の合間、明るくそう答えた九尾さんに、演奏は思い通りにできているかと尋ねると、「バッチリです!」とサムズアップした。

 両校得点を許さず、スコアボードには上下にゼロが並んでいく。試合が動いたのは6回表。常総学院が犠牲フライで1点を先行する。一方で、航空石川が好機を迎えると、近江のチャンステーマ「ファイアボール」が、グラウンドで戦う選手たちを鼓舞した。

 そして1点を追う9回裏、航空石川は1アウト1、3塁と絶好のチャンスを迎えた。ここぞとばかりに「ファイアボール」がボルテージを上げる。だが――、最後はショートゴロのゲッツーでゲームセット。航空石川は涙を飲んだ。

善戦するも惜敗した航空石川 Ⓒ時事通信

 前出の航空石川吹奏楽部顧問・久保さんが言う。

「近江高校の吹奏楽部の皆さんとは、帰り際に抱き合ったり、写真を撮ったりしてすっかり打ち解けていました。部員たちは『また甲子園の応援に行きたい』と、前向きな様子です。輪島にいつ戻れるのかも分からない中で、野球部や吹奏楽部の生徒が、ひたむきに自分たちができることをやろうとしている姿を見ていると、私たち大人も、生徒たちのためにまたがんばろうと思えました」

 その活力は、きっと能登の被災者たちにも届いたことだろう。

雨の合同吹奏楽団も雨の中奮闘 Ⓒ文藝春秋
ライバル校から異例の「応援」も…能登を背負った「日本航空石川」甲子園を彩った奇跡の3校合同演奏

週刊文春電子版の最新情報をお届け!

無料メルマガ登録