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 朝ドラは1日15分を週5話、それが半年続くので間延びしたり中だるみすることも多いが、『ブギウギ』は最終126話までエピソードが満載だった。

 これは、笠置シヅ子の人生の波乱万丈さに支えられている部分が大きい。

 出生の秘密を知らずに養父母に育てられ、少女歌劇団を経て上京して楽劇団へ。

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 東京で作曲家・服部良一と出会ってスターの道を駆け上がり、ブギの女王になり、エノケン(榎本健一)との共演で、女優業でも活躍した。

 一方で弟を戦争で、養母や恋人を病で亡くして未婚の母になり、娘は誘拐未遂事件にまで巻き込まれている。『ブギウギ』に登場したこれらのエピソードは全て史実だ。

草彅剛とのコンビも印象的 『ブギウギ』NHK公式サイトより

 しかし同時に、1つ1つのエピソードは強烈なものの、そのつながりが“雑”だったという印象はぬぐえない。エピソードが強烈すぎて、朝ドラで大切な「丁寧な日常描写」がおろそかになっている雰囲気もあった。

 そしてこれは想像だが、主人公のモデルが実在の人物で、しかも戦後という比較的近い時代が舞台なことも影響しただろう。

吉本興業の御曹司と恋に落ち、ジャニー喜多川との接点もあった笠置だが…

 笠置シヅ子は戦前・戦後の芸能界を生きた人間で、関わった企業は現在の芸能界にも直結している。彼女は実際に宝塚、吉本興業、ジャニーズとの接点があった。

 笠置は宝塚音楽歌劇学校の入学試験を受け、筆記と面接をパスしたものの、体格試験で落ちている。

 笠置が恋をして私生児を産んだ相手は吉本興業の御曹司・吉本エイスケだった。2人が結婚できなかったのは、笠置の妊娠をエイスケが母親の吉本せい(吉本興業の創業者)に伝えておらず、後に大反対されたのが理由だった。笠置シヅ子の自伝『歌う自画像:私のブギウギ傳記』(1948年、北斗出版社)を読むと、エイスケはボンボンらしい世慣れた“ズルい”男だった印象を受ける。

 しかし「ブギウギ」では、エイスケがモデルの愛助(水上恒司)はスズ子のファンの純朴なオタク青年として描かれていた。実は吉本エイスケは2017年の朝ドラ『わろてんか』に登場して成田凌が演じていて、個人的には同じキャストで毒のある吉本エイスケが見たい気持ちもあった。

 またアメリカ公演で渡米した笠置を案内したのはジャニー喜多川だが、『ブギウギ』にそれらしき人物は登場しない。(富田望生が演じたスズ子の付き人がアメリカへ渡った時に「もしかすると性別を変えたジャニー喜多川的な人物として再登場するのか」と一部の視聴者が盛り上がったがそんな展開は訪れなかった)

 笠置と言えば美空ひばりとの確執も有名だが、その問題は江利チエミや飛鳥明子など多くの実在の人物の要素をミックスすることで創作としてそれなりに納得できる演出になっていただけに、吉本エイスケやジャニー喜多川についてももう少しいい形があったのではないだろうか。