大好きな芸能人がある日性犯罪で捕まったら、ファンはどうしたらいい? 韓国で相次いだ事件に対し、ファンたちが率直な思いを吐露した映画『成功したオタク』が話題だ。日本でも性加害問題が次々と提起されているが、ジャーナリスト・相澤冬樹氏は自身の取材体験から、日韓の意識の違いを感じたという。

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 私の「推し」(=熱心に応援している歌手やアイドルなど)が逮捕された。それも性犯罪だって。

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 うそっ!  いったい何があったの?  私は「推し」に認められた「成功したオタク」だったのに、「失敗したオタク」に転落しちゃったってこと?  どうしよう。ほかのファンのみんなはどうしてるんだろう。

 よ~し、こうなったらみんなに話を聞いて回るしかない!

 それを本当に実行し、各地のファンを訪ね、話を聴きながら動画に撮り、一本の映画に仕上げてしまった大学生の女性が韓国にいる。大学を休学してまで。

 しかも作品を映画祭に出したら高い評価を受け、商業映画として韓国で一般公開され、評判を呼んで日本でも上映されることになった。これが初の海外公開だ。ちょっと凄くない?  「転んでもタダでは起きない」を地で行っている。

左がオ・セヨン監督(『成功したオタク』より)

 監督のオ・セヨンさんは田舎の中学生だった時から、あるK-POP男性スターの熱烈なファンだった。田舎から列車で3時間かけ初めてソウルでのコンサートに。サイン会に毎回、韓服(ハンボク)を着て参加し、「推し」から「いつも韓服を着てるよね」と声をかけられる。やったー! 「推し」に存在を認められた。私、「成功したオタク」になった! 「成功したオタク」とは、「推し」から自分のことを認識してもらい、直接声をかけられるような存在になること。言わば「オタク」界のエリートだ。

ある日、「推し」が性犯罪で逮捕されて

 なのに20歳のある日、「推し」が逮捕された。韓国芸能界を揺るがせた、ナイトクラブを舞台にした性犯罪事件の一人として。

 受け入れがたい現実。それまで全力を注いで応援してきた歳月を全否定された気がした。彼を思って過ごした自分の幸せな時間まで否定しなければならないの?

 そんな思いで始めた同好の士への行脚。みんな全人生をかけてそれぞれの「推し」に精力を注ぎこんできた“オタク遍歴”がある。許しがたい出来事に直面したからと言って、そう簡単には解消できない。

 同じ事件で立件された別の男性歌手のファンは、これまで集めてきたCDなどのコレクションを前に語る。

「これを引っ張り出す前は彼がすごく憎かった。だけどなぜか今は…彼の悪口が言えない…。私、何言ってるの?  ヤバいよね」