そして「東京ブラザーズ」の末路は……
彼らはシャバに戻ってからは犯罪歴のためビザの更新ができず、あらかた帰国したという。
「それで解散というか、終わったんじゃないかな。静かになってよかったよ。でもあれからネパール人は新大久保で物件を借りにくくなったんだから、迷惑な話だよ」
そうボヤくLさんだが、また似たようなグループが出てきているとも話す。
「多摩のほうにいるって聞いたことがある。だいたいが、親がコックとか経営者とか、カレー屋の2世だよね。『家族滞在』が多いんじゃないかな」
ネパールからつれてこられて日本社会にうまく適応できなかった子供たちだ。自然に言葉を覚える年齢は過ぎていて、日本人の友達はできず、親は仕事ばかりでほとんど放置、ネグレクト状態だ。中には過酷に長い労働時間を課せられていたコックの親もいたかもしれない。
その親が、とりあえずお金だけでもと子供に渡す。コックではなく経営者で経済力のある親の中には、愛情はそうでもないがお金だけは潤沢に与える親もいるそうだ。あるいは自分でアルバイトをして稼ぐ子供たちもいる。それがたとえ月10万円だとしても、ネパールの月収の5倍以上だ。舞い上がり、天狗になる。そのお金でぜいたくをし、似たような境遇の連中が集まって悪さをする。Sさんが言う。
「日本につれてこられた子供のほかに、東京ブラザーズのようなグループには留学生も交じっていました。こいつらはボンボンです。ネパールにも金持ちはいるんですが、子供がグレた家庭もある。そいつらを地元に置いとくよりはって留学の名目で海外に行かせるんですよ」
ゆるいネパールのノリで日本で騒いでいたら…
いわばやっかい払いだ。そんな親の意図を感じ取れば、どうしたって荒れるだろう。こういう若者が集まって、新大久保や歌舞伎町で、同じようなネパール人グループと抗争を繰り広げていた。ひと昔前の、日本のヤンキー集団のようなものだろうか。
「でもケンカしすぎたよね。ゆるいネパールのノリで、あちこちで騒いでみたら、あれ日本の警察めちゃ厳しいなって。日本の法律もなにも知らないんだから。それで取り締まられて」
いずれにせよ「なんの力もない、ただのガキどもだった」と、話を聞いたネパール人たちは口をそろえる。「巨大なギャング組織」と報じるのは果たしてどうだったのか、メディアの悪ノリと誇張があったという人もいる。僕が日本人だから話を矮小化しておこうという印象は受けなかった。
そして誰もが「これはセカンド・ジェネレーションの問題だよね」と言った。Lさんは日本で30年近く働いてきた苦労人で、日本語もきわめて堪能だ。カトマンズの大学を出て日本に留学し、商売を立ち上げて在日ネパール人社会を支える存在にもなった。