日本に最初にカレーが伝わったのは明治初期と言われますが、それからずっと日本人はカレーに魅了され続けてきました。そんなカレーの世界には現在、これまでの時代には無かった変化が起こりつつあります。

 その変化を一言で説明するなら「多様化」です。半世紀前であれば、「カレー」と言えばほぼそれは、「カレーライス」もしくは「ライスカレー」と呼ばれる、たった一種類の料理を指しました。もちろん家庭ごとに、あるいは店ごとに、その味や具材の構成は少しずつ違います。しかし少なくともかつての時代においては、日本人がイメージする「カレー」は、極めて均質な物だったのです。

日常に溶け込んだインドカレー

 そんな日本人のカレー観に、まず最初に揺さぶりをかけたのが、言わずと知れたカレーの本場、インドのカレーでした。日本で最初に提供されたインドカレーは、新宿中村屋の「純印度式カリー」と言われています。なんと1927年のことなのですが、それはあくまで一軒の店で出される、超高級料理でした。その後インドカレーは長い時をかけて少しずつ日本に浸透していきましたが、その潮目が大きく変わったのは、2010年代。調理師として来日するネパール人が急増し、その受け皿としてのインド料理店が、日本全国で増加していったのです。彼らの作る甘く食べやすいカレーや、焼きたてのふかふかで巨大なナンは、あっという間に多くの日本人を魅了しました。価格の安さと圧倒的なボリュームも受け、今やそれはすっかり日本人の日常に溶け込んでいます。

ADVERTISEMENT

©AFLO
©AFLO

急速に裾野を広げる「未知のカレー」

 ここまでざっくばらんに「インドカレー」と書いてきましたが、現代日本におけるインドカレーは、ざっくり2種類に大別可能です。ひとつはインド料理マニアの間では「本場系」「ガチ系」と呼ばれる、現地の味わいを可能な限りそのまま再現したものと、もうひとつは、日本人の嗜好に合わせて徹底的に食べやすく改変された、いわばローカライズタイプです。2010年以降に急増したインド料理店のほとんどは後者のタイプであり、その担い手がインド人ではなくネパール人であったこともあって、そういった店は「インネパ系」と呼ばれることもあります。