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 ブームの中で切磋琢磨するスパイスカレーには、様々なアイデアが加わり、独自の進化も遂げつつあります。最近では「だしカレー」が、すっかりこのジャンルの定番となりました。これはインドなどをルーツとするカレーに、和風のだしが加わったもの。インド人はびっくりするでしょうが、確実に日本人好みのカレーになる、大胆かつ的を射た工夫と言えるでしょう。

そもそも日本人の飽くなき食への探求はどこから生まれたのか

 このようにカレーは近年一気に多様化し、そして裾野も広がっています。気候の温暖化で日本が熱帯化しつつあるため暑い国のスパイス料理が浸透し始めたのだ、という少々突飛な説も耳にしたことがありますが、これもあながち牽強付会とも言えないのかもしれません。

 しかし歴史を振り返ると、日本人は昔からこういうことを繰り返しているのです。かつて味噌と醤油と野菜の世界だった日本に、洋食は最初は「バタ臭い」などと敬遠されつつもじわじわと浸透し、今ではすっかり日本食化しています。中華もまた日本人好みにアレンジされたものが定着し、今ではカレー同様、本場そのままの「ガチ中華」と共存しています。

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©AFLO

日本人の食に対する探究心はなぜ生まれたのか

 近年では、オリーブオイルや各種チーズなどかつては全く馴染みのなかったはずの食材が多用されたイタリアンが、まるで昔からあったかの如く完全に市民権を得ています。そして今度はそこにスパイス料理としてのカレーが加わった、というのが昨今の状況だと言えるでしょう。

 日本人のそんな食に対する飽くなき探究心はなぜ生まれたのか……。もしかしたらそれが最大の謎なのかもしれません。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。