しかし、ここで不可解なことが生じます。依存症の人は、依存物を使用するという「快楽」をたくさん得る行為をしているはずなのに、なぜ「不快」になってしまうのでしょう?
快楽で不快さが増大する?
実際、楽しく遊びまわっている人は一見、幸せそうに見えます。しかしながら依存症の人は、依存物の使用によって快楽を得ても不快さが消えないという事態に陥ります。
なぜなのでしょう?
いくら依存物で「快楽」を得ようとしても、もともとの「不快」が強いせいでなかなか解消されないのではないか? とも考えられますが、実はそうとはいえません。
依存症の人は、半端ではない量の依存物を使用していることが多くあります。たとえば、ゲーム依存症の人であれば一日十数時間ゲームをプレイしているとか、アルコール依存症の人であれば一日あたり日本酒一升(1.8リットル)の飲酒をするなどです。そんなに「快楽」を得る活動をしているのにもかかわらず、不快さはちっとも解消されていないのです。むしろ不快さが増大するという、おかしなことが起きるのです。
依存物は抗えない不快を増していく
結論からいえば、依存物は逆の作用をもたらすのです。
つまり、依存症になってしまうと、快楽をもたらすはずの依存物を使えば使うほど、依存物を使っていないときの不快度は増してゆくのです。詳しく説明しましょう。
人は「快楽」を得るために依存物を使います。「快楽」を得ることによって、より「幸福」になろうとします。
ところが依存物を使いすぎて依存症になると、依存物で「快楽」を得られる(正の強化)ものの「幸福」というゴールに至るのではなく、依存物を使わないときにはいつも「不快」(負の強化)が生じてしまうのです。
依存症の人はしばしば、依存物を使用する間は「快楽」を得られるので、それに満足して「幸福」になれると信じて使い続けます。しかし同時に、負の強化も進行していきます。そして実際には、いつの間にか、自らが依存症の負の強化によって「不快」になっていることに気づきにくくなります。