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 昨年、旧ジャニーズ事務所の性加害で問題となった「メディアの沈黙」は、テレビ各社が検証番組で「ジャニーズ事務所への忖度」や「事務所の顔色をうかがうような付き合い」を反省する社員や元社員からの声を放送した。事務所のタレントやスタッフらと一緒にハワイ旅行に行ったという証言もあった。

 東山氏の回答を聞く限り、メディアを思う方向に誘導しようとする姿勢に現在も反省する様子はない。メディアもBBCのような報道はせず、「沈黙」は続いている。

BBCに学ぶべき「専門型」かつ「批判型」の報道

東山紀之氏と井ノ原快彦氏 ©EPA=時事

 BBCのドキュメンタリーでは一貫して被害者を「サバイバー」と呼んでいる。児童虐待から「生き残った人」という意味である。性的な児童虐待について取材を続けるアザー記者が、こう東山社長に質問した。

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アザー記者 ソーシャルワーカー(社会福祉士)として正式な訓練を受けていますか? 性的虐待のサバイバーのため正義を確保したり、カウンセリングをしたり、そういう訓練は。

東山社長 いや、してないですね。僕はプロフェッショナルではないですけど、やっぱり真摯に向き合うことが大事だと思っています。そこで話をすることによって、今日モビーンさんとお会いしたのと同じように、しっかりとちゃんと、目を見つつ、コミュニケーションを取れるようにしていきたいと考えています。

アザー記者 SMILE-UP.の責任者をあなたが務めることについて、社会は信用しているか、あるいは信用すべきだとあなたは思いますか?

東山社長  僕しかいないなと思いました。

 アザー記者から、性的虐待のサバイバーへの補償提供を使命とする会社・SMILE-UP.の社長に適任だと思いますか? と問われながら、改めて専門的に学ぼうという姿勢を示さない経営トップ。史上最悪の性虐待事件を起こした会社の後処理をする経営トップとして不適任ではないか。

公道からの撮影をとがめる警備員 「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」(BBC World Newsより)

 東山社長は昨年の会見で再び記者会見すると明言しながらその後は会見をしていない。そのようななかで、BBCの単独取材を受けた。それでも日本のメディアはずっと沈黙したまま。「SMILE-UP.は日本のメディアをどう考えているのか。自分たちにも単独インタビューさせろ」ともっと怒ってもいい。

 BBCにはできて、日本のメディアにできていないことは何か。BBCの報道を見れば実はシンプルなことだ。「サバイバー」のことを第一に考え、疑問に思ったことを納得がいくまで相手にぶつける。相手から「分からず屋」だと思われることを恐れず、しつこく取材を申し込んで質問し続けていく。日本のメディアはそれをしようとせず、気がつけば相手から手なづけられてしまっている状態だ。

 旧ジャニーズ事務所の性加害問題、BBC報道から1年経っても、日本のメディアは根本では何も学んでいないと言わざるを得ないのではないか。