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コンゴの川では“殺人蜂の大群”が襲ってきて……川下り界のレジェンドと「間違う力」の作家が組んだ奇跡の探検紀行

コンゴの川では“殺人蜂の大群”が襲ってきて……川下り界のレジェンドと「間違う力」の作家が組んだ奇跡の探検紀行

高野秀行✕山田高司

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 社会, 読書, , ライフスタイル

note

高野 その後、隊長は97年に、ナイル川沿いで環境活動している地元のNGOを支援する団体を立ち上げて、4カ月かけて広大なナイル川流域を調査するのに僕が同行しましたね。

山田 英語とフランス語ができて、4カ月暇で、しかもノーギャラで受けてくれる人なんて絶対いないだろうと思っていたら、高野がいた(笑)。ルワンダ、ケニア、タンザニア、エチオピア、スーダンを一緒に回ってくれて。

20年ごしの約束を果たしたイラクの旅

高野 山田隊長は、SDGsという言葉なんて誰も知らない当時から、「持続可能な成長」を掲げて環境保全を訴えて世界各地で植林活動などを展開していた。そして、いずれナイルの川を一緒にめぐろう、なんて約束もしましたよね。

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 ところがその後、隊長はあまりの激務がたたって、心身を壊してしまった。今だから言えますが、鬱がひどかった頃は僕が訪ねていっても寝床から起き上がれず、目もうつろで声すら出ないときもありましたね。そこで、僕がかなり強引に「北上川にいきましょう」って連れ出したら、もう水を得た魚のように顔が輝いているの。ああ、これが隊長本来の姿なのだから、この人を絶対に川に戻そうと心に誓った。

 それがイラク湿地帯の旅につながったわけですが、再び一緒に川をめぐろうという約束を20年ごしにやっと果たせたわけです。

山田隊長(手前)とアフワールをめぐる高野氏 ©高野秀行

山田 かつて4カ月アフリカに同行してもらったし、イラク湿地帯は面白そうだったからOKしたんだけど、足かけ4年も付き合わされることになるとは思わなかったよ(笑)。

 一番最初のイラクの旅は、当時まだテロの危険も多く、とにかく行くだけでも大変だったな。俺はまだ本調子でなかったし、山仕事をやっていたから腰の調子が悪かった。腰が痛いもんだから、特製のいいコルセットを買ってガチガチにロックしていたら、それがとんだ逆効果。現地でバクダッド出るときに、強烈な痛みが頭にまできてしまって。

いつも以上に「間違う力」を発揮してしまい…

高野 本当に気を失いそうなほどでしたよね! すごく寒い時期だったせいもあって辛そうでした。そんなイラクの舟旅の計画の顛末は本書に譲るとして、僕は隊長といると安心してしまうのか、「間違う力」をいつも以上に発揮してしまうんですよね……。

 同じ探検部でも農大と僕のいた早稲田はカルチャーが全く違って、農大は綿密に計画をたてるけど、早稲田の方はもっと山っ気のあるいい加減な連中が集まっていて、探検の対象も、めちゃくちゃなところを好む傾向がある。

山田 ほんと高野は「間違う力」だらけで、一緒にチグリス川の川下りしていた時なんて、途中休憩を挟んで、「じゃ、行きますか」といったら、突然上流に向かって「川登り」し始めたこともあった。「おーい、どこに行くんや~?」って。

 そもそも湿地帯の舟旅も計画そのものが間違ってたわけだし(笑)。

舟で浮島(チバーシェ)を訪問する ©高野秀行

高野 随分と振り回しましたが、隊長はものすごく綿密に準備する方で、グーグルマップで、どこの村がどういう生活をしているとか、ここに激流があるとか、全部事前にチェックしてるんですね(笑)。