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山田 グーグルマップって木の一本一本まで見れるし、ダムとか急流もかなり分かるんですよ。あまり調べると未知がなくなるとよく言われるけど、わかることが事前にわかれば安全に行けるし、そっから先がわかってこそ面白い。未知は現場にいくらだってあるのだから。

 孫子の「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉通り、相手と己を知らなければ環境問題は解決できないし、戦争だって止められないわけだし。

伝統的な舟タラーデをこぐ山田隊長(左)と高野氏(真ん中) ©高野秀行

高野 出た、山田ワールド! 振りがいつも唐突で、旅の途中でも「高野、覚えているか、さっきの葉っぱ?」みたいな感じで飛躍しているんだけど、次元の違うものの見方で、ハッとさせられるんですよね。今回の本でも、「人類の文明は、みな大河の中流域の乾燥地帯で生まれているんだ」という指摘に大きな気付きがありました。

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 考えてみれば、エジプト文明のナイル川も、メソポタミア文明のチグリス川も、インダス文明のインダス川もそうてす。砂漠って、実は農業に適している土地なんですよね。

自然を見るときは大きなつながりと時間軸のなかで捉えたい

山田 そう。病気も虫も少ないし、水さえあれば、決して土地は痩せてないから。農業で一番の大敵は虫と病気。それがないんだから、あとは灌漑で水さえ流れてくれば、これほど農業がやりやすいところはない。

高野 そういう視点って、いろんな本や資料を読み込んでも意外に書いてないんです。隊長は19世紀のナチュラリストのような存在で、やってることが博物学者に近いと思う。自然のことはなんでも興味を持って、それを記録して、他の人に見せる。フンボルトやダーウィンが、動物も植物も環境もトータルでわかっていたように。

山田 そんな大それたものじゃないんだけど、アメリカインディアンの言葉に、「7代先の子孫のことを思って今を生きろ」という言葉があって、土地はあくまで神様からの「借り物」という世界観。森でも川でも、自然を見るときは大きなつながりと時間軸のなかで捉えたいと常に思っています。

アフワールの光景 画・山田高司

高野 隊長の言葉は旅の折々で、新しい視界が開ける契機を僕に与えてくれたんですね。コロナ禍をはさみつつ地図もない茫洋とした巨大湿地帯を奇跡的に探索できて、そこで住まう遊動民の生活実態を克明に記録できたのも、隊長とのコンビだったからこそだと思う。

 隊長はもっと世に知られるべき存在だと僕は思っていて、この15年、本人からは「迷惑だ」って言われながら、「山田隊長を世に出す」プロジェクトを孤独に続けてきました(笑)。それがようやく実って、今回の受賞となったのがすごく嬉しい。

山田 そんなの、誰も頼んでないんだけどなぁ(笑)。

(第16回高野秀行オンラインLIVE「辺境チャンネル」より)

高野秀行『イラク水滸伝』(文藝春秋)

高野秀行(たかの・ひでゆき)

ノンフィクション作家。1966年東京都生まれ。ポリシーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で酒飲み書店員大賞、『謎の独立国家ソマリランド』(集英社文庫)で講談社ノンフィクション賞等を受賞。他の著書に『辺境メシ』(文春文庫)、『幻のアフリカ納豆を追え!』(新潮社)、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)などがある。2024年、第28回植村直己冒険賞を山田高司氏とのコンビで受賞する。

 

山田高司(やまだ・たかし)

探検家、環境活動家。1958年、高知県生まれ。東京農業大学在学中の1981年に南米大陸の三大河川をカヌーで縦断し、「青い地球一周河川行」計画をスタート。85年にアフリカに渡り、セネガル川、ニジェール川、ベヌエ川、シャリ川、ウバンギ川、コンゴ川の川旅を成し遂げる。1990年代後半から2000年代前半にかけて環境NGO「緑のサヘル」に参加。その後、環境NGO「四万十・ナイルの会」を主宰。愛称は、山田隊長。公式HP https://yamada.aisa.ne.jp/

イラク水滸伝

イラク水滸伝

高野 秀行

文藝春秋

2023年7月26日 発売