すると、そこには12歳で死別した両親が、若いころと同じ姿で暮らしていた。その日を境に、アダムはこの家へ通うようになり、両親のもとで穏やかな時間を過ごすのだが――。
こう見ると、ストーリーの骨格となる部分はほとんど変わっていない。もちろん舞台が日本からイギリスへと翻案されているが、それ以外にはアダムとマンションで出会う人物が女性から男性に変更されただけ、と思えるかもしれない。
しかし今回の映画は、主人公であるアダムの設定をゲイの男性に変えるという、大きな脚色を行っている。彼が出会うハリーも、ゲイの青年というキャラクターだ。
原題は“All of Us Strangers”。邦訳すれば“私たちはみな見知らぬ人々”。この映画が指す“異人”とは、つまり“見知らぬ人”のことでもあるのだ。
ゲイである主人公の感情を深く掘り進めていく
アダムは両親を早くに亡くし、さらにゲイだったことから、誰ともつながりあえずに生きてきた。彼にすれば、この世に生きる人たちはみな“見知らぬ人”たちだ。
そのアダムの感情を、この映画は深く、深く掘り進めていく。
たとえば、彼が両親とともに幼い日の思い出を振り返る場面。小さいころ、彼は女みたいだといじめられ、部屋でひとり泣いていた。そのトーンは、原作や大林版が両親とのふれあいを通して、郷愁を色濃くにじませたのと違う。
つねに寂しかった。つねに傷ついていた。
彼の思い出は、彼の人生は、そんな欠落感とともにあったのだ。
ペット・ショップ・ボーイズなど80年代のヒット曲とともに
監督のアンドリュー・ヘイは、ゲイである自身のパーソナリティーを作品に投影し、両親を亡くした喪失感に加え、ゲイとして生きてきたアダムの孤独感、“見知らぬ人”たちの中で感じてきた疎外感に焦点を当てた。
そして誰も愛することのできなかったアダムが、誰かを心底から愛するようになる、その再生の道筋を描きだす。
映像も音楽も、彼の悲しみと響きあうように、どこまでも静謐だ。だからこそ随所に挿入される、1980年代のヒット曲が印象深い。
なかでも、両親との時間を彩るペット・ショップ・ボーイズの「Always on My Mind」は、そのきらめくサウンドと愛のこぼれるような歌詞で、観る人をいっときの甘美な夢に誘い込む。