“You were always on my mind”――私の心の中にはいつも君がいた――というフレーズを曲に合わせて両親と歌うとき、アダムは誰かを愛すること、誰かに愛されることの尊さに触れる。
もちろんペット・ショップ・ボーイズが80年代以降のゲイ・アイコンだったことも、この選曲には重ね合わされている。フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「The Power of Love」が使用されるのも同様だ。
ヘイ監督は言う。アダムが向き合い、乗り越えなければならないのは、「ゲイとして育ったことで傷ついた、壊れやすい自己意識」なのだと。
原作や大林版以上に繊細に
アダムとマンションで出会うハリーが、原作や大林版と異なりゲイという設定になったことで、ふたりのあいだには同じ意識を共有する強い結びつきが生まれた。
そしてふたりの関係が、原作や大林版以上に繊細に描かれるエンディングは痛切かもしれない。
しかしその悲痛なできごとを通じて、アダムは本当の愛の力を知る。
『異人たち』は喪失や孤独の先に、愛のかけがえのなさを見出す、深遠なゴーストストーリーだ。
『異人たち』
STORY
ロンドンのタワーマンションに暮らすアダムは40代の脚本家。両親を12歳のときに亡くした彼は、それからひとりぼっちで生きてきた。ところがかつて暮らした郊外の家で、30年前に死んだはずの両親と出会う。そして彼らと幸福な時間を過ごす一方、同じマンションに住むハリーと恋に落ちるが――。
STAFF & CAST
監督・脚本:アンドリュー・ヘイ/原作:山田太一『異人たちとの夏』/出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイ/2023年/イギリス/105分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン