被害総額60億円と言われている広域特殊詐欺事件、通称「ルフィ」事件。実行犯となった若者たちはなぜ、日本を震撼させた犯罪に手を染めてしまったのだろうか?

 ここでは、実行犯たちの素顔に迫ったルポルタージュ『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書)より一部を抜粋。組織の幹部として暗躍した柴田千晶被告。なぜ彼女は“ルフィグループ”に入り、幹部と呼ばれるようになったのか――。(全4回の4回目/3回目から続く)

※本文中の敬称等は略し、年齢、肩書などは原則的に事件当時のもの

ADVERTISEMENT

写真はイメージです ©maruco/イメージマート

◆◆◆

柴田の家庭は近所では不仲で有名だった

 東京・多摩地域にある東大和市。南北を走る多摩都市モノレールの駅からほど近いところに柴田の実家が存在していた。しかし、そこは多感だった年ごろの柴田にとっては暗澹たる思い出を紡いだ場所だったようだ。近隣住民が明かす。

「そういえばそういう子いたな、という印象しかないです。少なくとももう10年は見かけていないです。実家もまだあるのか、誰が住んでいるのかすらわかりません……」

 最初は、けんもほろろな対応だったが、粘って話をつなげると、絞り出すかのように古い記憶をたどってくれた。

 柴田の家庭は近所では不仲で有名だったという。両親の怒鳴り合う声が聞こえることもしばしばだった。

ネグレクトに近い状態だった小学生時代

「いつしかそれがなくなったと思ったので、離婚したんだろうな、と思ったんです。そして父親らしき人物を見ることもなくなりました」

 まだ柴田が幼少期の話だ。そうして母子家庭になったのだが、母親は生計を立てるのに精一杯だったのだろうか。柴田は母親に構ってもらえなくなっていったという。小学校4~5年ごろには、何日も同じ服を着ていたようで、不潔な姿で学校に通う姿を住民は覚えていた。今で言うネグレクトに近い状態だった。

 そうした姿で登校すれば、いじめに遭うのではと、筆者は思ったのだが、同級生のA子はそれを言下に否定した。同級生たちが柴田を白い目で見ていたのは事実だが、柴田はそんな同級生たちの視線を敏感に感じ取っていたのだ。