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 他人から嫌われたくないため、他者との距離を保ち、ずっと生きてきた女が27歳となり、自分なりの「人生の分岐点」を考えた末に見つけたのがフィリピン行きだった。そこで「詐欺グループ」は自分を快く受け入れてくれた。そして、惚れた男ができた。

 孤独に苛まれていた自分に突如として現れた「帰る場所」。それは惚れた男への、ひいては極端な組織への献身、そして忠誠へと繋がったのではないだろうか。

 柴田は渡邉と出会って以降、ひと月に一度のペースで、計7回もフィリピンを訪れている。その度に大金をスーツケースに入れて渡航しており、警察はその総額は3億円にのぼるとみている。渡邉のもとにそのまま1か月ほど滞在することもあれば、翌日には帰ることもあった。

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 しかし、日本に戻ればSNSや「テレグラム」を使い、特殊詐欺で奪ったカネを集め、リクルーターとして出し子を募るなど、八面六臂の活躍をしていた。全ては渡邉のために、そしてやっと見つけた自分の居場所を守るために――。

柴田千晶被告が惚れたルフィグループの幹部・渡邉優樹被告(フィリピンの現地メディア「GMA news」より)

蜜月の終焉

 しかし、そんな柴田の生活は突如、終わりを告げる。2019年11月29日、柴田は逮捕されたのだ。渡邉に出会ったその日から、わずか7か月での終焉だった。

 計7人からキャッシュカードを騙し取り、1000万円ほどのカネを共謀して奪ったという罪だった。フィリピンに現金を運んだことなど、余罪は十分に考えられたが、証拠が集まらなかったのだろう。そうした罪では起訴されなかった。

 警察の取り調べが始まっても柴田は揺らがなかった。組織に加担した理由を「渡邉に頼まれたから」とだけ語った。愛する男に尽くしたまで、と言わんばかりに。

渡邉はフィリピン人の“現地妻”に熱を上げ…

 一方、渡邉はその柴田をどういう存在だと捉えていたのか。柴田がフィリピンに来ると、渡邉は多くの時間を柴田と一緒に過ごしていたという。

 しかし、柴田が日本に戻ると、フィリピン人の“現地妻”に熱を上げ、挙げ句の果てにカラオケスナック店まで持たせている。さらには日本人向けのパブで働いていた“お気に入り”の日本人女性のところにも足繁く通っていた。

 毎日の飲み代は数十万円という。その原資は言わずもがな、柴田が日本でかき集め、危険を顧みずフィリピンに運び込んだカネだった。

 渡邉が柴田の「愛」に応えようとしていたとは到底思えない。闇バイトに応募してきた若者を使い捨てのコマのように扱っていたのと同様に、柴田もコマとして扱っていたと考えるのが自然だ。筆者はそれを確信に変える「ある事実」をつかんだ。