「まこ、お前、指を詰めろ」「わかりました」――いったいなぜ日本初の女ヤクザは、自身の小指を切り落としたのか……? 身分が上の者には絶対に逆らえない「ヤクザ社会特有の文化」を、日本初の女ヤクザ・西村まこさん初の著書『「女ヤクザ」とよばれて ヤクザも恐れた「悪魔の子」の一代記』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)  

なぜ西村まこさんは小指を切り落とす必要があったのか?(写真:本人提供)

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指詰めは私にお任せ

 驚いたことに、杉野組は表向き建前では「シャブは禁止」と言いながら、蓋を開けたら、どいつもこいつも「ド」がつくポン中ばかり。組の主なシノギはシャブ屋というのが本音でした。

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 実際、困ったことに、私が杉野組で盃をしてほどなく、親分にみんなのシャブ乱用がメクれて(嘘がバレて)非常に怒り狂ったという事件が起きました。このとき、本部長に呼ばれ、「まこ、お前、指を詰めろ」と言われました。これは組のみんなのポン中を代表して親分に謝罪しろという意味です。カタギの人からすると、とうてい納得できない理不尽極まりない命令だと思います。

 しかし、ヤクザにとって上が言うことは絶対です。「カラスは白い」と言えば白になる世界です。私の返事は「わかりました」と答える以外の選択肢はなかったのです。まあ、私からしても「ヤクザ稼業をやっているのだから、指の一本、落としておかないと格好がつかん」と思いましたので、さっそく日本刀を用意して自分の部屋に行き、自力で指を落としました。

 その後、指落としの名人になりましたが、第一号はこのときに落とした自分の指です。これがいちばん苦労しました。指を床と日本刀で挟んで自分の足で踏んだのですが、指が斜めに切れてぶら下がってしまったのです。しょうがないので、日本刀でガンガンたたいて、ようやく切断しました(この切り直しのために、私の小指は第二関節からないのです。たまに「まこ、お前、二回もヘタ打ったんか」と尋ねられますが、短い理由は切り直したからなんですよ)。

 懐紙に包んでその場に置き、自分の足で歩いて、加納病院(現・加納渡辺病院)の門をたたきました。病院では麻酔を打ったあと、爪切りみたいなもので周りの骨を切り、切断面をそろえてから縫合するだけで処置は完了。病院に行ったのは、これが最初で最後です。

 私は事務所に戻り、懐紙に包んだ指を本部長に渡して一件落着です。ヤクザ映画とは違って「エンコ詰め」は案外あっけないものだと思いました。その後、私の指がどうなったのか聞いてはいませんが、それで事務所の「みんなポン中事件」が解決したのなら安いものです。

 とはいえ、ポン中の私の場合、シャブをやると指が痛くなって困りました。