三重県にある渡鹿野島……かつて「売春島」と呼ばれていた島では、一体どんな取引が行われていたのか? ヤクザ時代に売春島に女性を斡旋したことのある西村まこさんが解説。

 現在は更生し、出所者の更正支援や街の清掃ボランティアに励行する西村さん初の著書『「女ヤクザ」とよばれて ヤクザも恐れた「悪魔の子」の一代記』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

かつて三重県「売春島」では、どんな取引が行われていたのか…? 日本初の女ヤクザだった西村まこさんが語る(写真:西村まこさんインスタグラムより)

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売春島に女を沈める

 最初にやった女のシノギは、三重県にある渡鹿野島(通称・売春島)に女を売り飛ばすことでした。以前、私が経営していたデートクラブ「キャンディーズ」で働いていた女の子二人、レイコとミホ(いずれも少年院同期組)が杉野組の事務所に転がり込んできて、厚かましくも事務所内に寝泊まりしていました。もちろん、非公式の寝泊まりですから、たまに会長が来たときなどはケツをたたいて押し入れに隠れさせました。

 もっとも、そのあいだ、遊ばせておくのは生産性がないので、テレクラに電話をかけさせてお客さんを拾って、売春することで稼いでもらったものです。一方で、面倒を見るふりをしつつ、女の子にはやんわり義理を嚙ませ、勝手に借金を負わせていたのです。借金の大半はシャブの代金でしたが。

 女の子のひとりが三重の出身で、ユウちゃんという元カレがいました。ユウちゃんは三重のヤクザです。女の子にユウちゃんを紹介してもらい、渡鹿野島の話を聞きました。私は、内心これはうまい儲け話になると思い、「そこに女を売ったら、店から前金でカネを取れるのか」と尋ねました。ユウちゃんは「そこはタマの質と、あんたの交渉の腕次第だな」と言います。

 さらに、渡鹿野島に女を売るルートや前借金が高い店も紹介できると言いますので、じゃあ、やってみようかということになりました。ユウちゃんの条件は「女が売れたら、少しバックをくれ」というものでしたから、たいした条件でもありません。

 さて、渡鹿野島に女を売り渡そうかというときになって、女が逃げました。行き先は大阪と知ることができましたので、レイコがよく電話をしていた大阪・中西組のミヨシさんに電話して女のガラ(身柄)を押さえてほしいという依頼をしました。もちろん、ガラを押さえてくれたら手間賃として10万円つけるという条件です。

 蛇の道は蛇ですから、ミヨシさんは逃げた女・レイコと連絡を取り、あっさりガラを確保しました。レイコはミヨシさんに「岐阜は怖いとこやで」と、しみじみ訴えていたそうですが、この確保劇の絵図を描いたのはミヨシさんです。

 レイコはミヨシさんと中西組の枝の事務所(新大阪駅の近くにあった)にいたところ、「怖い岐阜の元凶」である私がいきなり登場したわけですから、それはもう腰を抜かさんばかりに驚いていました。

 私はそのままベンツでレイコを連れて岐阜に戻り、そこで借金の額を確認させました。これは今回の逃亡で連れ戻しに大阪に行った旅費に加えて、事務所に置いていたあいだの面倒見料や飲み食い、シャブのカネなど適当に盛った金額です。