物凄くアジア的で格好良かった遠藤雄弥
キャスティングは辰巳役の遠藤雄弥さんを含め、全員オーディションでした。遠藤さんは最初、敵役の竜二役としてカトウさんから推薦されましたが、実際にお会いしたら物凄くアジア的で格好良くて。“辰巳だ!”と、稲妻に打たれた感じでしたね。
辰巳と逃げる葵役は、男の設定だったんです。その役のオーディションには700人の参加があったのですが、なかなか見つかりませんでした。
ある時、辰巳の妹役候補で森田想さんがいらしたのですが、彼女の佇まいが素晴らしくって、これは遠藤さんのバディになれば面白いと閃きました。結果的にこれが大正解。辰巳と葵の関係が擬似兄妹的、プラトニック・ラヴのような深みを増しましたから。
後藤剛範さん、佐藤五郎さんといったその他の演者の皆さんにも本当に恵まれました。
狂気を帯びた竜二役で出て下さった倉本朋幸さんにも感謝しています。実は倉本さんはオーストラ・マコンドーという劇団を主宰されている演出家で、僕はその劇団で戯曲を書かせていただいた経緯があります。
以前から倉本さんの無国籍的なにおいがいいなと思っていたので、何度も出て欲しいと口説きまして。普段は気さくで明るいのに役に入るとガラッと豹変する。その役作りもロジカルでご自身のメソッドがしっかりしている。演出家を演出するのは緊張しましたけど。
こういうフレキシブルに男女の役を変えたり、配役にこだわることができるのは自主制作ならではです。
この映画はロケーションにも大きく助けられました。リアルな地場によって設定が変わっていったんです。『ミッション:インポッシブル』がロケ地からドラマを創造していったと聞きますが、まさにそのノリでした。
神奈川の相模原にある廃車工場は寒々しい感じが良くて、ついつい長く撮影してたら、『お金はいいから早く撮り終えてください』とお願いされちゃいましたけど(笑)。
辰巳が葵と2人の仇である竜二と向き合う場面。あの中華料理屋は新宿歌舞伎町にあるんですが雰囲気抜群です。全て自分の足でロケハンして決めるのは楽しい日々でした」
俳優陣の姿勢も製作の励みに
麻薬を巡る殺しの目撃者である葵を、理屈抜きに守り抜く辰巳を描く本作。だが、通りいっぺんのノワール劇ではない。登場人物の会話、アクションまで絶妙の変化球が光るのだ。
「遠藤さんと、龜田七海さん、森田さん姉妹が三人で口論するシーンがありますが、被りながら言い争うセリフを台本に書き込んでいました。そういう縺(もつ)れる会話劇がやりたかったんです。