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「やはりただの通せんぼおじさんでした」

  川勝知事の辞任表明は多方面に反響し、珍しく芸能界からも声が上がった。日本中を忙しく動き回るタレントにとって、リニア中央新幹線は待望の移動手段である。

  その中で目を引いたのはタンバリンアーチストのゴンゾー氏の「やはりただの通せんぼおじさんでした」というポスト。川勝知事の「理屈よりも意固地」をわかりやすくバッサリと表現した。静岡県出身のゴンゾー氏は「静岡県は魅力あふれるところです。難しいかもしれませんが、どうか嫌いにならないでください」とも添えた。

  静岡県は観光的にも人気の県だ。東京・大阪・名古屋から近く、鉄道ファンにとってはSLの大井川鉄道があり、アニメファンには『シン・エヴァンゲリオン』の「第3村」があり、温泉好きには熱海があり、歴史愛好家にとっては徳川家ゆかりの地。リニア中央新幹線が開通すれば東海道新幹線の「ひかり」「こだま」が増えて、今までよりも行きやすくなる。

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川勝知事が動かし続けたゴールポストたち

  リニア新幹線の開通をめぐって、2014年に完成した環境影響評価書を元に、JR東海と静岡県の利水関係者は基本協定を結ぶところまで来ていた。しかし2017年10月に川勝知事が「静岡県にメリットがなく協力できない」と判断した。リニア新幹線は静岡県に駅がなく、何かメリットを用意せよ、と言っているように見える。

  これについて静岡県は「ゴールポストを動かしていません」と説明しているが、川勝氏はここで基本協定というゴールを動かした。「1つめのゴールポスト」だ。

日立製作所下松工場で公開されたL0系950番台の先頭車(2020年3月撮影)

  さらに川勝知事は、「静岡県のメリット」として求めるものを明言しなかった。静岡県とJR東海が長く抱える因縁である「静岡県にのぞみが止まらない問題」「静岡空港に新幹線の駅を作らない問題」についてJR側に譲歩を求めているのではという憶測も広まった。

  2019年には川勝知事がJR東海に補償金を求め「他県で駅を造るなら、その半分くらいが目安だ」と発言した。これは「カネで解決するつもりか」と報じられた。「2つめのゴールポスト」は金銭だった。

「他県で駅を造る」とは、JR東海がリニア新幹線が止まる中間駅の建設費を負担することを指している。JR東海は当初、中間駅は自治体の負担としていた。しかし沿線自治体の反発を受け、駅は最小限の設備でJR東海が全額負担し、周辺設備は自治体負担とした。

  交渉が長引くくらいならカネで解決する、JR東海らしい判断だ。しかし静岡県には駅がないので、川勝知事は駅を造る半分くらいの金銭を補償金として求めたのだ。