リニア新幹線問題を考えるうえで重要なのは、川勝平太知事のJRとの対決姿勢が一定程度静岡県民に支持されていたという事実だろう。
筆者の友人の静岡県出身者によると、静岡県民のJR東海に対する好感度は他県よりも低いようだ。「のぞみを静岡に停めてほしい」「東海道新幹線に静岡空港駅を作ってほしい」という要望をJR東海は却下していたことが理由だという。
「静岡県vs JR東海」という構図での煽りあいが勃発
のぞみの静岡停車については、「のぞみ通行税」としても話題になった。2002年の静岡県議会で「通過するだけののぞみとひかりの乗車人数に応じて地方税を課したらどうか」という議論があり、当時の石川嘉延静岡県知事が「検討に値する」と答弁したのだ。
静岡空港駅の地下を通る東海道新幹線に駅を設置する運動も県をあげて実施し、調査予算も計上していた。
静岡県内には熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松と6つの新幹線停車駅があり、沿線都府県でもっとも多い。すでに東海道新幹線に優遇された県ともいえる。しかし需要バランスも均衡しており、どれか1つを主要駅としてまとめられないという事情があり、JR東海はリニア中央新幹線の開通後は東海道新幹線の静岡県駅停車を増やすと説明している。
しかし静岡空港駅はJR東海にとって需要がない。そもそも、運営がうまくいっていない静岡空港駅を活性化するために生まれた案であり、JR東海の責任はない。
川勝知事は、静岡空港を首都圏の第三空港にしたいと発言したことがある。成田、羽田につぐ首都圏の第三空港となれば、国の支援も受けやすくなることを見越してのことだろう。そしてそのためには、東海道新幹線の駅を作って東京へのアクセスを良くしたい、ということだ。
とはいえJR東海から見れば、静岡県が首都圏第三空港になってから新幹線の駅を作るかを検討したいところだろう。そこで話は止まっていた。
静岡県民の中にうっすらとあった「JR東海が言うことを聞いてくれない」という感情を知っているからこそ、地元紙の静岡新聞は“県民の側”に立ち、専用のSNSアカウントまで作ってJR東海批判を繰り広げた。
大井川の水量問題は、静岡県の「命の水」の危機として対立を煽る報道は全国紙やテレビなどに伝播し「静岡県vs JR東海」の構図は鮮明になっていった。