知事の真のゴールはリニア新幹線が「静岡県内を通らないこと」
いま思えば、川勝知事にとっての真のゴールは「静岡県内を通らないこと」だったのだろう。だからこそ「リニア中央新幹線には賛成の立場」なのだ。しかしJR東海から良い返事がなければ国土交通省へ要請し、国土交通省が要求を蹴れば環境省へ赴く。そうやって実際の工事はどんどん遅れていった。
静岡県の働きかけに応じて、国土交通省はリニア中央新幹線の「水問題」「生物環境問題」について「有識者会議」を立ち上げた。当初は国もJR東海に対して「きちんと説明するように」と指示していたが、それでは収まらないという判断だ。
2020年から13回にわたる長い議論の末、水問題に関しては「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という「中間報告」を出した。ちなみに中間報告は行政用語で「議論終了」を意味する。
「生物環境問題」も有識者会議によって、22年6月8日から14回にわたり検討された。該当地域の生物環境は地下水ではなく地表から浅いところの表層水で維持されていることがわかった。
ただし、自然環境は「なにがおきるかわからない」不確実性があるため、35の沢のうちトンネルと交差する11の沢を選び、トンネル側に水が流出しないように凝固剤で固めることとした。その上で、定期的に現地調査を行う「順応的管理」を実施する。これは遠隔モニターではなく、実際に登山して調査するという。これも決着である。
最後の「トンネル掘土」の置場について、JR東海は山中の3カ所を選定した。土地所有者とも合意済みで、山奥のためダンプカーが人里を走ることもない。重金属など毒性のある成分を含む「要対策土」は遮水シールドで密封する。また、降雨時は排水をまとめて水質を検査し、基準を満たす水を川へ流す。
この対策について静岡市の難波喬司市長も「JR東海の設置方法で概ね問題ない」と表明した。難波氏は、国土交通省で港湾局災害対策室長を務めた技術官僚出身である。
川勝知事は「その場所は深層崩壊の懸念がある」と反発したが、難波市長は「盛り土はむしろ下流域への崩壊を防ぐ。大規模な土砂崩れの予測と対策は河川管理者の県の責任」でありJR東海は責任を負わないという見解を示した。そもそも鉄道の盛り土は「ただの土砂捨て場」ではない。東海道新幹線だって盛土の部分はたくさんある。盛り土は鉄道技術による「建築物」なのだ。
これで静岡県が懸念する「水問題」「環境問題」「盛り土問題」は解決したことになる。