動かすだけでなく、ゴールが増える
2019年にJR東海の金子慎社長(当時)は、「静岡工区は他の工区と比べて進捗が遅れている。これを後の工程で取り戻すことが難しくなりつつある」と発言した。
これに対して川勝知事が「問題解決より開業時期を優先するとは無礼千万」と激しく批判したことでJR東海と静岡県の問題が明らかになった。
水問題についで、川勝知事は生態環境について、すべての地域で生物多様性を一切損ねてはいけない、という要求をだした。つまり、大井川流域の利水には満足できても、南アルプスの「人以外の生物も守れ」と言った。しかし生態環境については2014年の環境影響評価書で一度解決済みだった。それを蒸し返したのだ。これが「3つめのゴールポスト」である。
さらにトンネルから掘り出した土の処遇をJR東海に任せきりにはしたくないから対策を講じ開示せよと求めた「4つめのゴールポスト」。JR東海の開示を受けて「大規模災害が起きたらどうするのか」という「5つめのゴールポスト」を設定した。
「報道などではゴールポストが動いた」というけれども、どちらかといえば「ゴールポストを増やした」である。
「水の全量戻し」でもゴネた知事
直接「ゴールポストが動いた」問題は「水の全量戻し」だろう。JR東海は工事によって減った大井川の水量を全量戻すことを約束したが、実はトンネル建設中に静岡工区から山梨県側に僅かな水が流れていく。トンネルは上る方向へ向かって掘る。下る方向へ向かって掘ると湧水が溜まって水没してしまう。だから山梨県側から掘るしかない。
これに対して静岡県が反発し、山梨県内からの工事差し止めを求めたのだ。水の量自体は少ないが、水を戻すためにはもう1本排出トンネルを掘るか、地表にパイプを這わせるしかない。
そこでJR東海は、大井川の田代ダムから取水する東京電力リニューアブルパワーの協力を得た。田代ダムの取水を制限し、代替水源にするという案だ。
これにも川勝知事は「田代ダム問題はかねてより静岡県と東京電力の問題だ」と発言し、余計なことをするなと言わんばかりだ。
JR東海は東京電力リニューアブルパワーからタダで水をもらうわけではない。水を分けたせいで、発電できなかった電力は、火力など別の方法で補う必要がある。その費用をJR東海が補償することになっている。川勝知事に同じことができただろうか。
静岡工区、南アルプストンネルの工事はここで止まっている。