夢枕獏のいまなお連載が続く『陰陽師』シリーズ。

 山崎賢人(崎=たつさき)主演、佐藤嗣麻子監督の『陰陽師0』は、その夢枕獏の原作をベースに、若き日の安倍晴明の姿を描いた映画だ。VFXを駆使した映像の迫力や美しさはもちろん、陰陽寮の権力争い、安倍晴明の朋友となる源博雅との出会いなども見どころとなっている。

 源博雅の従姉妹・徽子(よしこ)女王を演じた奈緒は、今作では「ほかではない」体験を多くしたという。撮影秘話や作品への思いを聞いた。

ADVERTISEMENT

◆◆◆

小学生で知った陰陽師・安倍晴明

──奈緒さんにとって陰陽師はどんな存在でしたか? 今作のオファーを受けた時のお気持ちも教えてください。

奈緒 私が最初に陰陽師を知ったのは小学生の時です。野村萬斎さんが安倍晴明を演じた映画を観たのがきっかけでした。

 歴史が得意ではなかったので、観る前は時代物に苦手意識があったのですが、史実というよりは心躍るファンタジーのような作品に、たちまち魅了されました。

©佐藤亘/文藝春秋

 それまで私の中で、「呪文」はディズニー映画に出てくるような魔法使いが使う特別なものという印象で、自分とはかけ離れたファンタジー世界のものでした。

 でも、安倍晴明は自分と同じ人間で、さまざまな経験を重ねて陰陽師として生きている。急に自分達に近い存在に感じました。

 大人になって振り返ってみると、陰陽師の世界には、現代の私たちの生活に通じるものがたくさんあります。そんな子どもの頃から魅力を感じていた世界に参加できて、本当に嬉しいです。

自分の生活とあまりにかけ離れた女王の日常

──今回奈緒さんが演じたのは、徽子女王という皇族の姫君です。演じるにあたり、どのようなことを意識されましたか?

奈緒 “女王”と呼ばれる役は初めてだったので、とても光栄でした。

 貴族のお姫様と聞くと、さぞ華やかな人生だったのだろうと思いがちですが、生まれた時からどのように生きるかが決められている人生には、それなりの葛藤や複雑な思いもあったと思います。

 現代の私には想像することしかできませんが、頭では理解しても、絶対に気持ちのなかで整理しきれない部分もあったと思うんですよね。その気持ちに寄り添って演じるよう、意識しました。

©佐藤亘/文藝春秋

 難しかったのは所作です。皇女として生まれた徽子女王にとって、誰かに身の回りのお世話をしてもらうことは当たり前の日常です。