着物を着る時も、お付きの方が腕をもって袖に手を通してくれる。それが、自分の生活とあまりにかけ離れすぎているので、少し気を抜くとつい自分で袖を通しそうになってしまい、我慢するのが大変でした。
──奈緒さんから見た徽子女王はどのような人ですか?
奈緒 徽子女王は、まわりからすごく大切に育てられ、世俗とはかけ離れて生きてきたので、どこか、少女のような純真さが残っている方だと思いました。そこを意識してみると、少し幼い響きを持った声色になりました。
また、愛されて育った徽子女王は、ご自分もきっと愛情深いお方だっただろうと感じました。
三十六歌仙にも選ばれるほどの和歌の名手で、琴の演奏にも長けた才女ですが、純粋で愛情深いからこそ、母への思いや寂しさから負の世界に引き込まれたところもあったんじゃないかと思います。
「一見完璧に見える才女でも、人間だから揺れ動くこともある」という部分を、徽子女王の背景に感じながら演じました。
与えられた運命をどう生きるかは自分で選択できる
──立場や身分が大きく影響する平安時代の恋愛については、どのように感じましたか?
奈緒 最初に脚本を読んだ時は、恋愛はおろか生き方にも自由がないように感じたのですが、実際に徽子女王を演じてみて、決められた定めを生きるのは、必ずしも悪いことばかりではないと思うようになりました。
思い通りにいかない人生に対して、「自分がこんなふうになったのは運命のせいだ」とネガティブに考えることもできますが、与えられた運命をどう生きていくかは、自分で選択することもできるんですよね。
徽子女王には、自分の運命を受け入れ、それを自分自身の成長に変えていく逞しさやしなやかさを強く感じましたし、現代に生きる私たちも彼女のように生きられたら、きっと自分の人生に対して前向きになれるのではないかと思いました。
「平安貴族=十二単」のイメージだったけど…
──佐藤監督が、今作の衣装は絵巻に出てくる装束ではなく、おそらく実際にこうであっただろう、という様式にもこだわったとおっしゃっていました。軽やかで上品な衣装や、幻想的な美しさにあふれた徽子女王の部屋の美術セットなどへの感想もお聞かせください。