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「あんたなんか毒親だ」妻と子の間違いを正しているつもりだったが…モラハラ・DV加害者は変わることができるのか

『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』中川瑛さんインタビュー

note

自分の加害性に苦しむ女性たち

――今作のもう一人の主人公である娘の奈月。彼女は鳥羽からのモラハラに影響され生きにくい人生となっています。彼女を通して伝えたかったこと、また彼女を描くときに気を付けた点など、奈月について思うことを教えてください。

中川 奈月のキャラクターを通して、僕はトラウマ、毒親、アダルトチャイルドなどの問題というか、キーワードを知って苦しんでいる人々のリアリティを描きたかったと思います。

 実際、このような背景を持つ女性は非常に多く、GADHAはよく男性の集まりだと思われるのですが、実際には3割ほどは女性です。彼女たちは自分の加害性をコントロールすることに苦しんでいます。こうしてはだめだとわかっているのにやめられない、自分自身に振り回されるような感覚に苦しんでいる人がたくさんいます。これは男性の加害者も、加害を自覚してからは同様です。

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 これらの女性は、自分が傷つけられてきたと感じる一方で、知らず知らずのうちに他者との関係で加害者になってしまうことがあります。そうして孤立したり、人間関係で問題を抱える中で生きづらさを自覚して色々調べてみると、上記のようなキーワードに出会う。社会や育った環境の中で被害者であったことを気づかせるものですが、現在は加害者となっているという事実に直面するのは、非常に辛いことです。

婚約者の陽多にも辛く当たってしまう奈月 『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』より

 奈月を描く際には、彼女の内面の葛藤や、生きづらさを感じている人々の感情を正確に表現することに注意しました。また、子供を持つことへの恐れや、親になることへの不安を抱えている人々の心情も描きたかったです。自分の生きづらさや、親からの影響を受けていることを認識した上で、同じ過ちを繰り返さないようにしたいという思いは、多くの人が共感できるものだと思います。実際、とても多くの方が、苦しんでもいます。

 そして、毒親として加害者にならないようにしようと思い、その葛藤を周りに共有したりすると「親もひとりの人間だし、ゆるしてあげたら」とか「いつまでも親のこと意識しすぎじゃない?」と言われることもよくあります。

 しかし、自分の加害者性を認めるからといって、自分の被害者としての傷つきや痛みがなかったことにはなりません。そして、実際、人を傷つけてきた歴史がなくなるわけでもありません。それがなくならないことを認めるからこそ、その痛みを引き受けてケアを始めていくことができるからこそ、きっと被害者から加害者になってしまった人の、その先の変容があるのだと思っています。

『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』より

 この漫画では、「加害者を許さなくても、幸せになっていい」というメッセージを伝えたかったのです。加害者を許さなくても、生きやすくなれる。ケアを始めることはできる。聖人君子にならなくていい。許せない人がいていい。全員と楽しく仲良く生きるなんてことしなくていい。自他共に持続可能な範囲でケアしあえる関係があればいい。それ以上のことを無理に頑張って目指さなくていい。誰にもゆるしを強要される必要はない。傷つきはなくなったりしない。

 だからこそ、自分もまた、誰かが自分を許してくれるとは限らないことを認める必要があります。憎まれ続けるかもしれない、嫌われ続けるかもしれない。それもまた、避けることのできない現実です。それでもなお、自暴自棄にならずに、自分の罪を認め、自分の痛みを認め、そして自他へのケアを始めていくことができれば、それ以上のことはない。それこそが幸せになるということの意味だと考えています。