実の父親からモラハラ・DVを受けて育った女性・奈月は、つい婚約者に辛く当たってしまうことに悩み、会社でも厳しい態度で部下を委縮させてしまっている。トラウマを抱えた奈月は「加害の連鎖」から抜け出すことができるのか……。

 コミック『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』(KADOKAWA)は、かつて“毒親”だった男性とその娘を描き出した作品だ。2022年12月に刊行された前作『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』につづき、「加害者は変わることができる」という原作者・中川瑛さんの想いが込められている。

 ここでは、漫画の制作を担当した龍たまこさんに、作品内でも描かれた「加害の連鎖」や「加害者を許すべきか?」というテーマについて伺った。(全5回の1回目/続きを読む

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『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』

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加害の連鎖をどう断ち切るか

――続編の発売おめでとうございます! 前作『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』は加害者側の心理を描いて話題となりましたが、前作発売後の読者の反応などいかがでしたでしょうか。

龍たまこ(以下、龍) 反応は様々で、「自分もモラハラ・DVに遭ってきた」「うちの夫(父)のことかと思った」「今どきこんな昭和な夫いるわけない」という声や、「スカッと系だと思って読み始めたら加害者心理がしっかり描かれていて、いい意味で裏切られた」と言う声が多く聞かれました。意外にも女性側から「自分も同じ事をしていないか、振り返るきっかけになった」という意見も多かったです。

 男性は手に取りにくいだろうな、と思っていましたが、意外と男性からの感想も多く見られました。思っていたより凄い反響で驚きました。

――そして今回は「加害の連鎖をどう断ち切るか」というより深いテーマが描かれています。“仏の鳥羽さん”と慕われる上司の娘・奈月が、鳥羽から受けたモラハラが傷になり、大人になっても自身の感情を制御できずに苦しむシーンに心を揺さぶられました。この「加害の連鎖」についてご意見をお聞かせください。

感情を制御できずに苦しむ奈月 『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』より

 子どもの頃に安心安全な環境で育つことができないと、自分の本心を抑圧した状態がデフォルトになってしまい、大人になっても、自分の本心がどこにあるのかわからないままです。いわば自分の基礎工事がしっかり出来ないまま、グラグラの状態で社会に出ていくようなものなので、これは本当に不安定で生きづらいんですよね。

 親子関係というのは人生最初の「親密で安心な関係」なのに、そこでうまくいかないと、大人になってから恋人や家族と親密な関係を持とうとしたときに、過度に依存的になってしまったり、逃避的になってしまったりします。

 とにかく人との距離感が上手く掴めない、自分の子どもにもどう接してあげて良いかわからない。「愛する」って何なのかわからない。そんな状態で子どもを持って育てていくことがどれほど困難かわかりますよね。

 自分は絶対に親と同じような親にならない、と決意しているのに、気付いたら親と同じ事を繰り返してしまう。加害の連鎖を断ち切るのって本当に難しいことだと思っています。

子どもは親から逃れられない

――奈月が大人になっても苦しむさまは、親から子へのハラスメントは被害が甚大で抜け出すのに多大な時間がかかるのだなと再認識しました。親から子へ、または大人から子どもへのハラスメントについてもご意見をお伺いしたいです。

 わたしは今42歳ですが、うちの父くらいの世代になると、「子どもの人権意識」というのは非常に希薄でした。子どもは、農村地帯においては労働力であり、親には絶対服従するものであり、1人の人間として扱われてはいなかったと思います。

 今はそこまでではなくなったと思いますが、自分の子どもを自分の分身のように扱い、子どもを自分の思い通りにしようとしたり、自分が叶えられなかった夢を子どもに託したり(子どもからしたら迷惑)、子どもと自分との間で自他境界が出来ていないパターンは多く見られると思います。