すべての親が肝に銘じなければならないことは、親からどんな目に遭わされても、それでも子どもはそこからなかなか逃れられないということ。
子どもは生活力が無いので、親に養ってもらわないと生きていくことができない。簡単に支配と服従の関係ができあがってしまうんです。大人と子ども、男性と女性、上司と部下。力のある方が何かを命令すれば、力の弱い者がそれを拒否するのは難しい。だからこそ、力のある側がいつも気をつけなければならないと思います。
自分は子どもが3人いますが、親子関係においては簡単に「支配」と「服従」の関係を作り出せることがわかっているからこそ、自分の言動をできるだけ振り返るようにしています。「よかれと思って」「正しいことを」していると思っているときこそ、危険だと実感しています。
――鳥羽は、過去の振る舞いについて反省し、現在は部下に慕われる上司へと変貌しました。部下との関係、娘への思いなど、鳥羽について思うことを教えてください。
龍 鳥羽さんは……本当に本当に悩みながら苦しみながら描いたキャラクターです(笑)。
前作の時に主人公の翔を助けるという重要な役割があって、その時は「かつてモラハラ・DVをしていて離婚したけど、今は自分の加害を認め、振り返り、受け入れた」というバックボーンを意識して描いてまして、自分の中では「辛い過去を受け入れすでに悟った人」くらいの感覚でいました。鳥羽さん自身の「課題」「弱み」みたいなところには触れていなかったんですよね。
今作で、鳥羽さんの過去を深堀りして、仏の鳥羽さんの闇の部分を描くことになったわけですが、これがなかなかイメージできなくてとても苦労しました(汗)。なんせ、こんな人に会ったことがありませんし、モデルもいなかったので。何度もMTGを重ねて、すこしずつ鳥羽さんの輪郭をつかんでいった感じです。
もしこんな人がいたら……自分の上司だったらとても働きやすいだろうなぁと思いますね。
毒親家庭で育ち…サバイバル術としての「怒り」
――今作のもう一人の主人公である娘の奈月。彼女は鳥羽からのモラハラに影響され生きにくい人生となっています。彼女を通して伝えたかったこと、また彼女を描くときに気を付けた点など、奈月について思うことを教えてください。
龍 奈月はパッと見激情型で、怒りっぽい、強い女性のように見えます。ですが、実際その怒りは弱い自分を守るための防衛システムみたいなものです。外側に向けた攻撃性と、内側の繊細さのギャップに気をつけて描きました。
イメージとしては、人間に捨てられた手負いの野良猫みたいな。基本的にとても人が怖いんですよね。信頼してしまって本当に大丈夫なのか? 弱みを見せても大丈夫なのか? 攻撃されないのか? 毒親家庭育ちで、常に緊張状態で生きてきた彼女のサバイバル術が、あの「怒り」だったと思います。
その怒りが陽多や部下に向けられるわけですが、「女性からのモラハラは許される」というメッセージにならないように、気をつけました。奈月は前半と後半で全然顔つきが違うと思うので、その辺も注目して読んでもらえたらうれしいです。