「自分が書いたのに」泣いてしまうエピソード
――印象に残っている、好きなエピソードを教えてください。
中川 龍たまこさんの漫画が素晴らしすぎて、自分が書いた内容なのに泣いてしまうエピソード群があります。
1つは彩から鳥羽への「死んで欲しいと願われても、それでも、生きて幸せになってください」というメッセージ。
もう1つは鳥羽から北見への「生きよう、生きていこう」というメッセージ。
そして最後に「いつか、生まれてきてよかったと、そう思える日が、きますように」というセリフ。
この3つは、命を繋いでいくエピソードです。悲しみも痛みもこの世界に生まれ落ちてきてしまった瞬間から約束されている。傷つけられる時も、きっと人を傷つけてしまうこともある。取り返しのつかないこともある。死んでしまいたい時もある。死を願われる時さえある。それでも生きていこう。生きて、学び変わって、ケアしあえる関係を生きて、幸せになって、そしていつか「生まれてきてよかった」と思える日がくるように、という願いが繋がっていく。暴力の連鎖ではなく、加害の連鎖ではなく、ケアの連鎖が、幸福の連鎖が続いていくことを願っているからです。
――最後に、『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。
中川 この本は、大きく2種類の方に届いて欲しいと願っています。1つは、変わろうとしている、自分を「毒親」と認識している方です。変わることは本当に大変だし、変わっても許されないかもしれない。それでも幸せになることは可能だと思って欲しい。そして、その希望があるからこそ、変わりたいと思って欲しい。そして周りの人、自分自身を、大切にできるように学び変わってもらえたらいいなと思っています。
もう1つは、毒親を持った子どもです。自分の生きづらさを理解しようと色々調べるにつけ、毒親といった知識を得て絶望する人は少なくありません。受け継がれているものなら、自分もそうなのかもしれないと思ってしまうからです。でも、その連鎖を止めることはできます。暴力の、加害の連鎖から、ケアの連鎖、愛の連鎖へと学び変えていくことはできます。その希望があるからこそ、人は学び変わりたいと思えるのだと思います。
こういった物語を通して、「加害者は変われない」というスティグマがこの世界から減ることを願っています。被害者もまた加害者になることがある。加害者は被害者だったこともある。「加害者は変われない」という言葉こそが、最も深刻な意味でのこの社会の「毒」だと考えています。
しかし、最後に絶対に付言させていただきたいことですが、被害者が、加害者を許す必要も義務も責任も決して存在しません。これだけはいくら言っても言い足りません。そして、被害者は加害者を許さなくても、幸せになれると信じています。