この電撃作戦について明記すべきは、いきなりクビ切りされた連中のうち、一人として、とくにヴァレンタインは、話し合いや今後の交渉をする機会を、一切与えられなかったことだ。解雇宣言は、迅速かつ最終の決定だった。
またたく間に、“生涯監督”から“足手まとい”へと格下げされ、茫然としたヴァレンタインは、この悲惨な展開の説明を求めて、重光昭夫オーナーのところへ直行。しかし驚いたことに、オーナーはヴァレンタインの電話にも出ず、eメールにも応えない。
消されていく名前と功績
ヴァレンタイン時代のマリーンズのように、アメリカ人監督が“名物”になったケースは、日本プロ野球のほかのチームに例はない。球場の入り口にあるテレビ・スクリーンには、ボビーがファンに挨拶している映像が、繰り返し映し出される。球場内のコンコースには、高さ三メートルのボビーの壁画と金言が並んでいる。
「チームはファミリー。幸せなファミリーはチームを強くする」
フードでさえ、彼の名前を使用した。〈ボビー・ボックス・ランチ〉、ラベルに彼の写真入りの酒、彼の名前の付いたビール、ボビーのバブルガム、等々。スタジアムのメインゲート付近には、ボビーをまつる小さな神社があり、彼をかたどった紙人形が置いてある。そして球場に程近い通りの名前が、〈ボビー・ヴァレンタイン通り〉。
しかし今になって瀬戸山は、ヴァレンタインの功績を思い出させるものすべてを、消し去ろうとしている。神社、メインゲートのテレビ・スクリーン、壁画、ポスター、ビール、ハンバーガー、その他、ボビー・ヴァレンタイン・グッズは、徐々に姿を消していった。
ヴァレンタインのたくさんのサポーターは、いったいどうなっているのか、と首を傾げた。
なぜこんなに速く、こんなに下まで落ちてしまったのだろう。
ヴァレンタイン監督が築いてきたファンとの特別な絆
ロッテ応援団のメンバーも、さまざまなファン・グループも、この急展開に憤りを隠せない。彼らはマリーンズ監督時代のヴァレンタインと、特別な絆で結ばれていた。ボビーは彼らに、応援する価値のあるチームを提供してきたばかりか、彼らをチームの重要な一員として扱ってきた。ほかの日本人監督は、外部の一般客とは一線を画す傾向があるが、ボビーは違う。