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記録でなく、記憶に残るチームの物語を
――時間がかかったのは、なぜですか?
池井戸 箱根駅伝というからには、やはり主役のランナーたちの物語を書く必要がありますよね。でも、箱根駅伝に出場する実在のチームを舞台にして描いていいのか、そこが問題でした。現に箱根を目指して頑張っている選手たちが各大学に大勢いるんです。実在のチームを舞台にしてしまったとき、果たして彼らがどう思うか。大学名だけ借りて勝手な物語を創作していいとは思えません。
やっぱり、実在のチームを舞台に物語を書くのは難しい。かといって、架空の大学名を並べても、読む側は感情移入しづらいでしょう。この狭間に落ちたまま構想が行き詰まり、6、7年も解決できなかったんですね。
毎年、箱根駅伝中継を見るたび、私の取材に全面的に協力していただいた日本テレビの皆さんの顔が浮かんできて夢でうなされそうでした。
――どうやって、その状況を抜け出したのでしょうか。
池井戸 3年ほど前です。ふと「そうか、これなら書けるな」という新しい切り口を見つけたんですよ。何でいままで思いつかなかったのか、思いついたときはまさに目からウロコでした。それさえ見つけてしまえば、小説は書けると思いました。小説にとって大切な骨格というか、枠組みができあがったわけです。あとは書くという作業のみです。
(取材・構成/大谷道子)
(#2に続く)