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天才監督の言葉は“刺さる”?

――レース中のアクシデントなど、ランナーにとって苦しい局面で響いてくるのが、監督・甲斐真人の声です。「ひとりで戦ってるんじゃないぞ」「仲間を信じろ」「お前がやるべきことは、自分に誇りを持って走る、ただそれだけだ」など。

池井戸 天から声が降ってくる感じですね。天才肌で、ちょっと現実離れしていて。

――陸上競技部OBで一流商社に勤務していたものの、「本当に信じられるもののために働きたい」とグラウンドに帰ってきた異才の人。「現状を疑え」「考える力は、打開する力になる」「本気で戦わないレースからは何も得られない」など、ランナーだけでなく多くの人に“刺さる”言葉を発します。

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池井戸 他のキャラクターと違って、彼が自分を語る場面はほとんどありません。そうすると彼の何というか……神々しい部分がなくなってしまうから。なので、彼の発した言葉や、周囲の人物が彼の背景を語ることで、甲斐というキャラクターを浮き立たせています。あえて言うなれば、“聖書方式”ですね。弟子たちが伝える言葉で神が輝くという。

 でも、そういう台詞も、あらかじめ用意しておいてどこかで言わせようというやり方では、やっぱりダメで。キャラクターを生かすためには、それに応じた生っぽい台詞が必要なんです。そういう台詞が自然に出てくるときは、たいていその小説はうまく書けています。そうじゃないときもありますけどね。

(取材・構成/大谷道子)

#3に続く

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