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「うつ病をはじめ、さまざまな精神疾患の診断がおりたのは20歳のとき。摂食障害の診断を受けたのは30代の頃でしたが、実は私は、40歳を過ぎた頃に『複雑性PTSD』と診断されました。今思うと、この『複雑性PTSD』が根本にあったせいで、いろいろな病気が併発していたのだと思われます。私の場合は、妊娠を機にこの『複雑性PTSD』が急激に悪化し、その影響で、思春期に暴言を浴びせてきた父と夫が重なって見えるようになってしまったのです……」

『複雑性PTSD』とは、持続的な虐待やドメスティック・バイオレンスなどのトラウマ体験をきっかけとして発症し、フラッシュバックや悪夢、過剰な警戒心などといったPTSDの主要症状に加えて、感情の調整や対人関係に困難が生じ、日常生活や社会生活上に大きな支障をきたす精神疾患だ。

 あくまでも丘咲さんの“被害妄想”で、夫が暴力をふるったことは一度もない。しかし丘咲さんは、“自分の家庭に”“大人の男性がいる”という条件が一致したことで、夫と父親が重なって見え、かつて父親から受けていた虐待のフラッシュバックを起こした。そのため、夫が仕事から帰宅する時間が近づくにつれ、夫からのDVによって自分の命が危険にさらされるような“被害妄想”をしてしまい、恐怖に慄き、動悸が激しくなったのだ。

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©mapo/イメージマート

 丘咲さんは、夫が帰宅する前に夕食を作っておき、夫が帰宅する時間には自分の部屋で布団に入り、なるべく夫と顔を合わせないようになっていった。

左半身の痛みと妊娠・出産

 もともと左半身の痛みに悩まされていた丘咲さんは、妊娠3ヶ月頃になると、大きくなった子宮が脊髄を圧迫するため痛みが激しく出るようになった。

 さらに、腎臓の中に水が溜まる「水腎症」という病気を併発し、入院することに。

「私は摂食障害がひどかったので、妊娠しても35キロくらいしかなかったんです。左半身の痛みと水腎症と摂食障害で全然食事ができず、栄養のための点滴と、水腎症の水を抜くための点滴と、左半身の痛み止めの点滴を受けていました。妊娠中だから使える薬も限られていて、いつまでお腹の中で育てて、いつ子どもを取り出すかという戦いがずっと続いていました」

 主治医からは「37週までは保たせましょう」という話があったが、35週目に入った頃に、「ちょっともう、母体が保ちませんね」という事態に陥り、急遽36週0日に出産することに決まる。

 無事生まれた子どもは、驚いたことに2000gぴったりの男の子だった。

「早産で未熟児なのですが、2000gあるかないかでぜんぜん違うらしくて。生まれた当初はいろいろ問題があったんですけど、1歳6ヶ月児健診以降は特に問題なく育ちました」

 丘咲さんは産前は7ヶ月ほど、産後は息子と一緒に2ヶ月ほど、実家近くの病院に入院していた。

 ところが、退院して夫が待つ家に帰ると、夫に対する恐怖心は出産前から変わらないどころか、大きくなっていくばかり。そして#1の冒頭につながる。

「最終的にはもう、『私、この人に殺される!』『子どもと一緒にここに閉じ込められてる!』って思っていました。夫が産院に来てくれたときも『来ないで! 来ないで!』って言ってて、義両親にも、『どうしたの? 息子が何か悪いことした?』ってすごい心配されました」

 ついに丘咲さんは、夫と暮らしていた家を飛び出したのだ。