児童虐待、DV、ハラスメントなどが起こる背景には、加害者の過去の「トラウマ」が影響しているのではないか――。そう指摘するのはノンフィクションライターの旦木瑞穂さんだ。
旦木さんは、2023年12月に刊行した『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)などで、家庭内で起こる“タブー”を調べていくうちに、親から負の影響を受けて育ち、自らも「毒親」となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の要因のひとつではないかと考えたという。
今回は、虐待被害者支援団体「Onara」の代表である丘咲つぐみさんに、自身の結婚生活に大きな影響を及ぼしてしまった、両親から受けた虐待の記憶について尋ねた。(全3回の1回目/続きを読む)
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人が生きるところに「トラウマ」あり。
家庭や学校、職場やサークルなど、社会で生じる「トラウマ」の多くは、連鎖していく傾向にある。
無意識に受け継いでしまった「トラウマ」こそが、現代を生きる人々の生きづらさの大きな要因のひとつではないだろうか。
そんな「トラウマ」の連鎖を防ぐ手立てを導き出したい。
「私、この人に殺される!」
東京都内在住の丘咲つぐみさん(40代)は、21歳の頃にアルバイト先で知り合った2歳年上の男性と交際し、23歳で結婚。新婚生活が始まると、翌年には妊娠した。
愛する人との子どもを授かり、幸せな生活を送れるかと思いきや、意外にも全くそうではなかった。妊娠を機に、突然夫が恐怖の対象に変わってしまったのだ。
念のため断っておくが、夫が丘咲さんに暴力をふるったことは一度もない。それなのに丘咲さんは、夫が仕事から帰宅する時間が近づくにつれ、夫からのDVによって自分の命が危険にさらされるような被害妄想をしてしまい、恐怖に慄き、動悸が激しくなった。
そのため丘咲さんは妊娠中、夫が帰宅する前に夕食を作っておき、夫が帰宅する時間には自分の部屋で布団に入り、なるべく夫と顔を合わせないようにした。
やがて産院での出産を終え夫が待つ家に帰っても、恐怖心は変わらないどころか大きくなっていく。
ついに息子が1歳になるかならないかの頃、丘咲さんの恐怖心は抑えきれなくなった。
「私、この人に殺される!」
そう思った丘咲さんは、息子を連れて家を飛び出していた。
「最終的にはもう、『子どもと一緒に夫にここに閉じ込められてる!』って思っていました。夫が産院に来てくれたときも『来ないで! 来ないで!』って言って怯えて、義両親にも、『どうしたの? 息子が何か悪いことした?』ってすごく心配されました……」
丘咲さんはなぜ夫に対して突然、異常とも思えるほどの強い恐怖心に襲われるようになったのか。その理由は丘咲さんの生い立ちにあった。