児童虐待、DV、ハラスメントなどが起こる背景には、加害者の過去の「トラウマ」が影響しているのではないか――。そう指摘するのはノンフィクションライターの旦木瑞穂さんだ。

 旦木さんは、2023年12月に刊行した『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)などで、家庭内で起こる“タブー”を調べていくうちに、親から負の影響を受けて育ち、自らも「毒親」となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の要因のひとつではないかと考えたという。

 今回は、虐待被害者支援団体「Onara」の代表であり、幼い頃から両親の虐待を受け続けてきた丘咲つぐみさんに、高校時代のいじめ、摂食障害や原因不明の左半身の痛みの発症、結婚生活の中で苛まれた“被害妄想”など、苦しかった10代、20代の記憶について尋ねた。(全3回の2回目/最初から読む

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丘咲つぐみさん 本人提供

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摂食障害と不登校

 丘咲さんが入学した高校は女子校だった。丘咲さんは、初日からクラスのボス的な同級生から目をつけられ、仲間はずれにされる。5月の校外での宿泊学習では、丘咲さんだけ部屋に入れてもらえず、部屋の外で1人夜を明かした。

 次第に学校に行けなくなっていく丘咲さんは、家にいればいたで、母親から「奴隷のくせに何の役にも立たない」「学校には行かないくせにお金だけかかる」「そこに居るだけで吐き気がする」などの暴言を吐かれ、当然のように手を出されることもあり、居場所が無かった。

 学校を休んでいると、高校の担任教師から電話がかかってくる。丘咲さんが「いじめを受けている」と打ち明けたところ、担任はいじめをしている数人にヒアリングを実施。数人は「いじめなんてしていない」と口を揃えたらしく、「お前の勘違いじゃないのか? しっかりしろよ。はやく学校に来いよ」と言われた。仕方なく登校すると、担任から呼び出され、「いじめを受けていると嘘を言っただろう?」と説教をされた。


「掃除の時間、数人から箒で叩かれたりトイレに閉じ込められたりすることが嫌で、誰も利用しない部屋に避難していたのですが、『掃除をさぼっている』と告げ口され、私だけ担任から注意を受けたこともありました」

 どこにも居場所がない丘咲さんは、最後の手段に出た。母親が不在の時間を見計らって、母方の祖母に電話をかけたのだ。

「あわよくば祖母の家に逃げたいと思って、『お母さんに暴力をふるわれたり、酷いことを言われたりしているから助けてほしい』って電話したんです。でも祖母には、『お母さんが言ってることが全部正しい。お前が悪い』と言われて諦めました……」

 やがて丘咲さんは、夏頃から摂食障害を発症。もともと身長156センチ、体重50キロほどあったが、最も体重を落としたときで25キロ前後まで落ちた。