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「川にヘンなものがあった。女が仰向けで…」遺体発見時の状況に隠された、殺人犯の“冷酷さ”<BOACスチュワーデス殺人事件>

「川にヘンなものがあった。女が仰向けで…」遺体発見時の状況に隠された、殺人犯の“冷酷さ”<BOACスチュワーデス殺人事件>

『消えた神父、その後:再び、BOACスチュワーデス殺人事件の謎を解く』より#2

2024/04/30

genre : ライフ, 読書, 社会

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 その後、発生した腐敗ガスにより水死体が海上に浮上、通りかかった釣り船により事件が発覚し逮捕された。犯人の息子は、タイヤを遺体に括り付ければ浮上しないだろうと、完全犯罪を目論んでいたようであったが、タイヤの重さが足りず、計算違いから完全犯罪は失敗に終わったのだった。

 この事件もやはり、強い怨恨がベースにある。

 ちなみにこの事件を基にした映画「青春の殺人者」(監督:長谷川和彦)が後に作られ、俳優・水谷豊の映画初主演作となった。

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 水のケースをもう一つ。

 ずいぶん古い話にはなるが、荒川放水路バラバラ殺人事件だ。まだ私が小学校の頃の1952(昭和27)年に起き、世間をアッと驚かせた。

 事件の被害者は、酒が入ると人格が豹変、殴る蹴るの暴行を日常的に働く、今でいうDV男。たまりかねた妻は母と共謀し、夫の寝静まった隙に首に紐を巻き絞殺したのだった。

 そして殺害後が凄まじい。遺体を風呂場に運び、のこぎりでバラバラにして、荒川放水路に投げ捨てたのだった。どれだけ夫に憎悪を抱いていたのか。ちなみに犯人の妻は学校の教師で、殺害された夫は現役の警察官であった。

 翻って知子さんのケースを見てみると、遺体は川に投げ捨てられていたのだ。犯人の冷酷さが感じられるのではないか。

 なにゆえに知子さんは憎悪の対象にされ、冷酷にも川に投げ捨てられたのか。犯人の冷酷さは、どう解釈したらいいのか。逆に言えば、犯人にそういった感情を抱かせ、行動させた知子さんの行為とは何であったのか。殺害後に「土」ではなく、わざわざ「水」に捨てたのはなぜか。

 知子さんが発見された場所は当時、武蔵野の緑が色濃く、周囲には「土」が多く残っていた。近くの大宮神社は昼間でも薄暗いところであり、知子さんの「第一発見者」である地元の毛塚正夫さんによると、薄暗い森林のなかでは自殺者も少なくなかったとのことである。それだけ「土」が多くある環境であったにもかかわらず、犯人はあえて、「水」に投げ捨てた。遺体を埋めなければならない時間と手間の問題はあるものの、どう考えても、土に埋めたほうが遺体の発見を遅らせることはできる。このことは、犯人の激しい恨みの証左ではないか。

「川にヘンなものがあった。女が仰向けで…」遺体発見時の状況に隠された、殺人犯の“冷酷さ”<BOACスチュワーデス殺人事件>

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