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 失敗しても成功しても、親以外の人と一晩過ごす経験は、きっと亮夏の世界を広げてくれる。親としてはチャレンジしてほしいけど、「お母さんが行ってほしいから行く」という判断では、亮夏が決めたことにはならない。

 このときは、どう背中を押したらいいのか悩みましたが、「やって無駄なことは何もない。楽しめるかどうか、何かを学べるかどうかは自分次第だよ」と伝えました。

高校時代にはキャンプにも挑戦した(写真=畠山織恵さん提供)

夫が息子のことにほとんど口を出さなくなった理由

――最終的に亮夏さんは、チャレンジする道を選びました。小学校3年生のときのカフェをきっかけに、少しずつ親以外との関係性を広げていったことで、「自分ならできる」という自信につながっていった。だから、不安を抱えながらもキャンプにチャレンジできたのですね。

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畠山 カフェのときも、キャンプのときも、悩んで泣いている亮夏を見て「行かなくていいよ」「無理しなくていいよ」と何度も言いそうになりました。でも、私が手を差し伸べたら、その瞬間はホッとするかもしれませんが、彼のためにはならない。

 これから先もずっと家族だけの狭い世界で生きていくのか。私たちが年老いたとき、亮夏はどう生きていくのか。未来を考えれば考えるほど、亮夏にはたくさんの人と出会って、自分の世界を広げてほしいと思ったんです。人とのつながりが、きっと未来の彼の支えになるから。

――亮夏さんのチャレンジについて、周りの反応はどうでしたか?

畠山 祖父母や夫は、心配しつつも最終的には亮夏の意志を尊重してくれました。ただこれに関しては、私と亮夏で勝手に話を進めすぎていたなと反省していて……。

 

――家族には事前に相談していなかったのですか。

畠山 以前は、夫によく亮夏のことを相談していたんですよ。でも、きちんとした答えが返ってこないから、だんだん相談すること自体をやめてしまって。夫婦と言っても、考え方も価値観も違う人間なんだから、話さないと分からなかったのに、私たちはそれを放棄してしまったんです。

 気づいたら、夫は亮夏のことにほとんど口を出さなくなっていました。その後、夫と喧嘩したときに「なんで亮夏のこと、そんなに無関心なの?」と聞いたんです。そしたら、「俺に話が来るのはすでにいろいろ決まった後じゃん」と言われて。それを聞いて、私は「亮夏の父親」という役割を夫から奪っていたんじゃないか、と思ったんです。