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「あいつはすごいやつだな」夫と息子のあいだに生まれた“変化”

――亮夏さん自身も、父親との関係がうまくいっていないと感じていたそうですね。

畠山 「亮夏の話していることがわからへん」と夫が外でぼやいている、という話を聞いたことがあって。たしかに亮夏の声は、障害の影響で聞き取りづらい。でも私は、亮夏が何を考えているのか理解したくて、何度もぶつかりながら耳を傾けてきました。

 夫は出張も多く、家にいない時間が多い。その分、夫の両親が育児を手伝ってくれました。世の中にはいろんな家族のあり方があるので、うちの家庭環境が悪かったとは思いません。でも、「忙しいから」「話をしても分かってくれないから」と、家族でぶつかる時間をとってこなかったのは、良くなかったかもしれないなって。

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幼少期の亮夏さんと畠山さん夫妻(写真=畠山織恵さん提供)

――その後、亮夏さんは「(僕のことを)分かってほしい」とお父さんに伝えたのですよね。

畠山 亮夏の言葉を聞いて、夫も思うところがあったようで。「あきらめないで自分で言うって、あいつはすごいやつだな」と言っていました。それから少しずつ、夫と亮夏の会話が増えましたね。それまでは「聞いてもわからないから」とあきらめていた夫が、亮夏に話しかけて、答えが返ってくるまでじっくり待つようになったんです。

――そこで父親と向き合おうとするところに、亮夏さんの強さを感じます。

畠山 24年間亮夏の母親をしていますが、彼が人を責めているところを見たことがないんです。傍から見ると嫌なことを言われたりされたりしても、相手のせいにするのではなく、「自分にできたことがあるんじゃないか」と考える。亮夏の視点には、私もハッとさせられることが多いですね。

 

うまく喋れない分、考える時間が何倍も多い

――それは、自分で考えられるよう心がけて亮夏さんを育ててきたから?

畠山 どうでしょうね……。それ以上に、亮夏自身が日々たくさんのことを観察して、自分の中で納得のいくまで消化してきたからじゃないかな。恐らく、他の人よりうまく喋れない分、考える時間が何倍も多いのだと思うんです。人生で思考してきた量は、彼の倍近く生きている私よりも、彼のほうが圧倒的に豊富なんですよ。