世にも奇妙なトンネルを目指して酷道を進む
香川県で国道193号に入った私は南に向かい、酷道区間を目指す。徳島県美馬市で吉野川を渡り、さらに南下して山間部に差しかかると、センターラインが消えた。この先がいよいよ酷道区間だ。
最初に待ち構える倉羅(くらら)峠は標高770メートル。対向車と行き違いができない区間もあるが路面は綺麗で、酷道としては少々物足りなさが残る。酷道の前哨戦、または慣らし運転として、ちょうどいいだろう。
倉羅峠を過ぎると、全国にその名をはせる酷道439号と合流する。
一瞬だけ重複したかと思うとすぐに離れ、さらに南へ。次に待ち構えているのが、土須(どす)峠だ。こちらは標高1023メートルと、かなり骨が折れる道のり。道幅は狭く、対向車が来たらどれだけバックしないといけないのかと考えると……ワクワクする。
私は物好きで酷道を訪れているだけなので、常に道を譲る側だと思っている。そもそも、バックしなければならない状況が楽しいので、そうした事態もご褒美のようなものだ。
峠を過ぎて下り坂になっても、本格的な酷道が続く。
先が見渡せる場所があったので、車を停めてしばし観賞した。
先へ続く細い道はクネクネと曲がりながら、上下にも大きく波打つように見えて、安定感がない。日本において最上位に区分される道“国道”とは思えない光景だ。ちょうど紅葉が見ごろを迎えており、酷道と紅葉が織りなす景色がとても美しかった。
その先に待ち構えているのが、イクサのハイライトといえる素掘りトンネル。
コンクリートで固められた通常のトンネルとは見た目が全く異なり、岩を掘ってただ穴を開けただけ。
入口も内部も一部を除いて岩がむき出しで、非常にワイルドなトンネルだ。
全国の国道、いや酷道を見渡しても、今となってはこうしたトンネルは非常に珍しい。渓谷の紅葉とも、とてもマッチしている。
素掘りトンネルに興奮しながら酷道を進むと、徳島県那賀町でこれまで並行していた沢谷川が坂州木頭川と合流する。このあたりからしばらくは、2車線の快走路となる。今回私がイクサをどうしても再訪したかった理由は、先ほどの素掘りトンネルではなく、実はこの快走路の区間にあった。