コンクリートで完全に閉塞された大用知トンネル
前方に立派な2車線の木沢トンネルが見えてきたが、その手前で左に分岐する道へ入る。
かつて木沢トンネルが完成する前は、分岐した左側の道が国道本線だったが、現在は国道指定を外されている。いわゆる旧道だ。
今は交通量がほとんどない旧道を進むと、立派な苻殿トンネルが見えてきた。
現役の主要国道にあるような2車線の新しいトンネル……に見えるが、内部の照明は消されており、真っ暗だ。
トンネルを抜けると道の状態はさらに悪化。
路面の半分は土砂で埋まり、植物がアスファルトを侵食している。2車線のうち1車線が自然と一体化し、その先には道路標識が見える。青い案内標識には“徳島79km、上那賀15km”の文字と、堂々と“国道193号”の表記が!
2車線の国道がまるで自然に還っていくような、現実離れした光景。ある日突然、文明が途絶えてしまった未来の世界に足を踏み入れてしまったような感覚に陥る。
さらに、その先にも2車線のトンネルが見えるが、コンクリートで完全に閉塞されている。閉塞されている大用知トンネルは、1993年に完成した比較的新しいトンネルだ。そんな近代的なトンネルが閉塞され、廃道になってしまっているのだ。
その理由は、この道が置かれた環境にある。20年前までは、このルートが国道193号として普通に機能しており、酷道ではなく2車線の道路で、快適に走ることができた。
しかし、2004年の夏、台風が日本列島を襲い、各地に大きな被害をもたらした際、山と川に挟まれた国道193号は甚大な被害を受けた。山腹崩壊によりトンネルは埋没し、橋は流失。そこに道があったと信じられないほど、ことごとく破壊された。
仮復旧によりなんとか交通路は確保したものの、このままでは再び被災する恐れがある。そこで、わずか11年前に完成したばかりの大用知トンネルと苻殿トンネルを放棄し、新たにより長く安全性の高い木沢トンネルを掘ることにしたのだ。
その木沢トンネルを掘る工法が、実に変わったものだった。被災した大用知トンネルを途中までそのまま使い、トンネル内部で分岐する形で新たに木沢トンネルを掘ったのだ。
現在、分岐点は完全に埋められており、痕跡はほとんど残っていない。
そのため、コンクリートで完全に閉塞された大用知トンネルは、一方の出口が存在しない。途中で現在の国道である木沢トンネルにぶつかるからだ。通常、トンネルは出入り口が2箇所あるものだが、大用知トンネルは1箇所しかない。これは、近代的なトンネルとしては珍しい。私はどうしてもこれが見たくて、193号を再訪したのだった。