国道は日本で最上級の道路であり、交通量が多く整備が行き届いた立派な道路をイメージする人が多いだろう。しかし、そのイメージとは裏腹に、道幅が狭く、舗装は剥がれ、路面には無数の落石が転がっているという国道も存在する。そんな国道のことを、親しみを込めて“酷道”と呼んでいる。

 日本全国に国道は459路線あるが、そのうち酷道と呼べるものは60ほど。道路整備が進めば酷道は姿を消して普通の国道に進化していく。酷道は、ただ単に状態が酷くてアドベンチャー要素があるだけではなく、時代に取り残されてしまった諸行無常や、その地域の歴史や文化まで感じ取れるのも興味をそそられる点だ。

国道439号(京柱峠)。これでも立派な国道である

一部地域に集中している“酷道” 

 酷道は全国にまんべんなく分布しているのではなく、一部地域に集中して存在していることが多い。酷道が多くなりがちな理由には、地形が急峻で道路の改良が難しいことが挙げられる。中央に大きな山地が居座る四国も、酷道が多い地域といえるだろう。

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 四国の酷道といえば、四国山地を東西に貫く酷道439号が有名(「路面はボロボロ、対向車が来たら終わり…総延長348キロの「酷すぎる国道」を全線走破してみた」)で、ヨサクの愛称で広く親しまれている。が、今回は、ヨサクに負けず劣らず、酷道の魅力に満ちあふれている酷道193号をご紹介したい。

国道193号の酷道区間

 国道193号は、香川県高松市から徳島県海陽町までを結ぶ総延長160キロ弱の路線で、四国東部を南北に縦断している。高松の市街地では高松空港へのアクセス道路として機能し、その後も吉野川にぶつかるまでは2車線の幹線道路となっている。

 しかし、吉野川から離れ、四国山地に向かって南下すると状況は一変し、酷道が牙をむく。険しく過酷な道のりと語呂合わせから、酷道193号は愛好家の間でイクサ(戦)と呼ばれている。

 私は20年ほど前から何度もイクサを訪れているが、酷道は生物である。年々、道路改良が行われて進化するし、季節や天候によって表情を変えるため、何度走っても飽きることがない。重度のマニアになると「あの酷道しばらく走ってないから、そろそろ確認に行かないといけないなぁ」という謎の義務感まで生じるようになってしまう。

 2023年秋、私は何度目かとなるイクサ訪問を決行した。今回は酷道の再確認だけではなく、ある大きな目的があった……世にも奇妙なあるトンネルを訪れたかったのだ。