イギリスの情報機関「MI6」で働く男は、なぜバッグの中で赤子のような体勢で発見されたのか……。2009年に世間を騒がせた「MI6職員バッグ詰め変死事件」。ロンドン警視庁は事故死と結論づけるものの、そこに残された大きなナゾとは? 鉄人社による新刊『読んで震えろ!世界の未解決ミステリー』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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MI6職員バッグ詰め変死事件
ガレス・ウィリアムズは1978年、ウェールズで生まれた。幼少のころから数学に関して驚異的な能力を発揮し、マンチェスター大学で計算幾何学の博士号を取得。2001年にイギリス政府通信本部(GCHQ)に就職する。ここでは主に暗号解読を専門とし、やがてその功績が認められ、2009年に通称MI6(イギリス秘密情報部。SIS)のロンドン本部に出向。アメリカ国家安全保障局(NSA)と協力し、マフィアの国際的なマネーロンダリングのルートを追跡する任務に就いていた。
2010年夏、休暇を取得し数週間アメリカで過ごした後、8月11日に帰国。同月16日深夜、ノートパソコンを使い、趣味だったサイクリングのウェブサイトをチェックしたが、これがウィリアムズが残した最後の痕跡となった。8月23日、ウィリアムズが仕事に復帰せず5日間連絡が取れなかったことを不審に思った同僚の通報を受けた警察が彼の自宅アパートを訪れスペアキーで室内に侵入、空のバスタブで1つのボストンバッグを発見した。
バッグは南京錠で閉じられ、底からは赤い液体が滲み出ている。警察が中を確認したところ、胎児のような体勢で収まった裸の遺体が出現。かなり腐敗が進行していたが、それは紛れもなくウィリアムズ本人だった。
MI5(イギリス保安局)とロンドン警視庁による現場検証の結果、不可解な事実が発覚する。浴室やバスタブからウィリアムズの指紋が検出されなかったのだ。彼はこのアパートに暮らし始めて1年以上。その間、一度もバスタブを触らなかったとは考えにくい。
さらに、バッグや南京錠からも指紋は出てこなかった。この状況から当然のように他殺が疑われるも、遺体に外傷はなく争った形跡もない。仮にウィリアムズが自らバッグに入り鍵をかけたとしたら、必ず指紋が付着しているはず。しかし、現実にはそれがない。ウィリアムズはバッグや南京錠を触らずに、いったいどうやって鍵を閉めたのか。そもそもバッグの内側から南京錠を閉めることは可能なのか。