「ある日、『これは無理!』という乗り物に出会った」
なんと高齢のお客がバスに乗せようとしたのは、ハンドル、バックミラー、そして荷物を乗せるカゴまでついたシニアカー(電動カート)…元バスドライバーの須畑寅夫氏はこの難題にどう対処したのか? 著書『バスドライバーのろのろ日記――本日で12連勤、深夜0時まで時間厳守で運転します』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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「そうなのかい。前は乗せてくれたのにねえ……」
一口に車椅子といっても、スポーツタイプのものや電動車椅子など、さまざまだ。重量のある電動車椅子は乗降に苦労することが多い。
ある日、「これは無理!」という乗り物に出会った。80歳はゆうにすぎたであろうおばあさんが乗っていたのは、ハンドル、バックミラー、そして荷物を乗せるカゴまでついたシニアカー(高齢者向けに製造された一人乗りの電動車両)だった。
「申し訳ありませんが、これはバスには乗せられないですよ」と丁重にお断りしたところ、「そんなことないね。この前の運転士さんは乗せてくれたよ」とおばあさんは引き下がらない。
そんなバカなと耳を疑ったが、サイズ的には無理して乗せようと思えば乗せられないことはなさそうだ。対応に困った私は、営業所に無線を入れて指示を仰いだ。
「車椅子ではなく、シニアカーなのでバスに乗せるのは不可」という回答だった。
「すみません。確認しましたが、やっぱりダメなんですよ」
「そうなのかい。前は乗せてくれたのにねえ……」