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おばあさんはしょんぼりしてそう言う。シニアカーに乗って去っていく後ろ姿が切なかった。きっと誰かが特例で乗せたのだろう。せめてその運転士が「今回だけ特別ですからね」とでも言っておいてくれたらよかったのに。
さらにスゴい客
後日、この話を営業所の休憩室で同僚に話したところ、
「えっ、俺なんかストレッチャーを乗せたことがあるよ」と言う。
彼の話によると、霧雨の降る夜、ストレッチャーに横たわった人が、2人に付き添われてバスを待っていたそうだ。ストレッチャーとは病院や救急車などで使用されている車輪のついた小型ベッドのような、あれだ。ドアを開けて確認すると、点滴までしている。
こんな状態なら救急車でも呼んだほうがいいのではと思ったそうだが、乗せてほしいと懇願されたため、彼はやむなく自己判断で、中扉からストレッチャーごとバスに乗せたのだという。霧雨も降っていたし、そのまま放置するのは忍びなかったそうだ。彼いわく、この件は会社には報告しなかったとのこと。
「こっちは人助けでやっているのに、始末書なんか書かされたらたまらんからね」
われわれバスドライバーは規則と人情との狭間で揺れ動いているのである。