「何やってるんだ。遅いじゃないか!」――車椅子のお客に配慮せず、自分の要求ばかりを押し通す困ったバスのお客とは? 元バスドライバーの須畑寅夫氏の著書『バスドライバーのろのろ日記――本日で12連勤、深夜0時まで時間厳守で運転します』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

バスドライバーが嘆いた「身勝手な客」とは? 写真はイメージ ©getty

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「何やってるんだ。遅いじゃないか!」

 昨今、車椅子でバスに乗車するお客が増えてきた。街中のバリアフリー化が進んでいるように、車椅子利用者が健常者と同じように移動できることが社会の要請となっている。バス業界も10年ほど前は車椅子を乗せられない車両がいくつかあったが、現在は段差がなく、床が低い位置につくられた「ノンステップ」で、車椅子を2台まで乗せられるバスが主流となっている。

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 車椅子のお客を乗せるためには、バスをニーリング(左側の車高をエアサスペンションを使って下げる)して、中扉からスロープを外に出し、そこから乗車してもらう。車椅子を停めるためのスペースにあるバス車内の椅子は畳む。また、車椅子とバスの床面、側面を固定するなど何かとやることが多い。

 これを一人でやると2分程度かかるのだが、急いでいる乗客の中には心ない人もいて、乗車の準備をしていると露骨にため息をつく人がいる。急いでいるのかもしれないが、あまりにも自分勝手だと思う。

 あるとき、40代と思われる車椅子の女性が乗車してきた。介助者はおらず、彼女ひとりだった。私がニーリングなどの作業をしていると「すみません。ありがとうございます」とたいへん恐縮している。

「いえいえ、構いません。こちらの場所でお待ちください」と案内すると、彼女はまわりの乗客たちにも「すみません」と気をつかいながら車椅子のスペースに移動した。「バスに乗る」というわれわれにとっては何気ない行動だけでも、こうして周囲に気を配らなければならない気苦労やたいへんさは本人でないとわからないだろう。

 その人を乗せて、その先2つ目のバス停に5分遅れで到着したところ、乗ってきた男性に「何やってるんだ。遅いじゃないか!」と怒鳴られた。