「全面戦争は決して起こらない」――以前からロシアとウクライナの衝突が指摘されていたにもかかわらず、こうした楽観論が有識者からも出ていたのはなぜなのか……? ここでは人間が重大リスクを見落としてしまう理由を、関西大学教授の藤田政博氏の新刊『リーダーのための【最新】認知バイアスの科学 その意思決定、本当に大丈夫ですか?』(秀和システム)より一部抜粋してお届けする。

(全2回の1回目/後編を読む)

「第三次世界大戦は起きない」「わが家は地震が起きても平気」と考える人たちの共通点とは? ©getty

◆◆◆

ADVERTISEMENT

なぜ「ロシアは攻めてこない」と思っていたのか?

 2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、2024年5月現在も続いています。

 これは、突如として始まったわけではありません。欧米各国から「ロシアがウクライナに攻め込んでくる」と指摘されていたのです。ですが、その一方で、「全面戦争は決して起こらない」と考えていた有識者も多数いました。

 当時のニュース番組では、現地のジャーナリストにマイクを向けられたウクライナ兵たちが「(ロシアとの戦争は)デマだ、信じるな」などと楽観的な返答をしている場面が流れていました。もしかすると、これ自体情報工作だったのかもしれませんが、現実にロシアが侵攻を開始したのは、その直後のことでした。

 このように正常性バイアスとは、緊急の場面で楽観的に判断をするバイアスです。このようなことが起こるのは戦争のときだけでなく、災害時にも正常性バイアスは発揮されます。

 たとえば、大地震の後に大きな津波がやってくることがあります。

 そういうときに、地域防災無線などで「津波が来ます。避難してください」と言われても、とくに自宅が倒壊しなかった方は「私は家でいつも通り生活しているし、まあ大丈夫だろう」と判断してしまうのです。

 すると避難が遅れたり、あるいは避難しなかったりで津波に巻き込まれてしまう……こういうことが発生するのが正常性バイアスです。つまり「(災害時でも)今の自分がいる状況は普段と変わらない」と、実際以上に思い込んでしまうのです。