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タイタニック見学ツアーで“乗組員5人すべてが死亡”…「数多くの問題が指摘されていた」のに経営者がそれを無視した理由とは?

『リーダーのための【最新】認知バイアスの科学』より #2

2024/05/13
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 正常性バイアスだけでなく、日常的に起こる楽観バイアスも、重大なケースに繋がることがあり、注意が必要です。

タイタニック、二度目の悲劇もバイアスが原因?

 楽観バイアスが影響して、その本人が亡くなったと思われる事故も起きています。2023年6月にアメリカで起きた潜水艇沈没事故です。

 これは、1912年4月に北大西洋で沈没した豪華客船「タイタニック」の観覧ツアーをおこなっていた会社の潜水艇が、水圧に耐え切れずに圧潰、乗員・乗客5人全員が亡くなる事故でした。この乗員の一人が、ツアー会社のCEOだったのです。

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 タイタニックの残骸は、深海約3800メートルの位置にあります。そこに行くための潜水艇は、その水圧に耐えられる設計にしなくてはいけません。

 しかし、BBCニュース(2023年6月22日)によると、タイタニックの観覧を敢行していた会社の元ディレクターが、検査報告書で潜水艇に対する懸念を表明していたそうです。「重大な安全上の懸念を呼ぶ数多くの問題が指摘されていた」とのことで、このディレクターは「潜水艇が極限の深さに達すると、乗客に危険が及ぶ可能性を強調した」のですが、会社から解雇されたとのことです。

亡くなったストックトン・ラッシュCEO(写真:時事通信)

 事故で死亡した5人の中には同社のCEOも含まれているので、本当に大丈夫だと考えていたのでしょう。これは、楽観バイアスに囚われていたと推測されます。

 しかし、当事者たちからすれば予防が非常に難しいものでもあります。何か重大なことが起きてしまった後で、初めて「あれはバイアスだったのか」と気づくこともあるためです。

 そのため「楽観バイアスは誰にでも生じ得る」と肝に銘じ、常に自分に問い掛けることが大事です。いざというとき、楽観バイアスがもたらす「大丈夫だろう」は命取りになり得ます。なるべくならば、同じ轍を踏まずに役割を全うしたいものです。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

タイタニック見学ツアーで“乗組員5人すべてが死亡”…「数多くの問題が指摘されていた」のに経営者がそれを無視した理由とは?

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