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龍崎 どんな点でそう思われたんですか?

古川 「そのブランドが世界に何を約束するか」を考えるということでは同じですが、広告はすでに出来上がったものについて考えていきます。その意味で自分たちが主役ではないんです。あくまで社長の代理ですね。独立してから、プロダクトやサービスそのものの企画に参画することも増えました。その違いはとても楽しい。

古川裕也氏

龍崎 確かにそこは違うポイントで、私たちは出来上がったものをどう発信するかよりも、お客さんが自ら発信したくなるホテルをどうつくるか? つまり発信より手前にあるプロダクトメイキングにより注力しています。つくる段階で、どれだけイースターエッグを仕込めるかを大切にして、新しいものをつくり出そうとしてきました。

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“考える範囲”をできるだけ狭くする

古川 経営も広告も、種目は違うけれど、“いかに新しさを生むか”がクリエイティブジャンプなわけですが、これまでにないものをつくろうとするときの鍵は、歴史なんですね。「新しさ」とは、今までと比較・参照して今までの歴史になかったかどうかという相対的概念です。

 龍崎さんなら、ホテルの歴史を裏切るとか、別の異質な角度を入れて新しさをつくるわけですし、僕たちもそのブランドが属するカテゴリーの歴史でまだやられてないことは何かを集中的に考えます。その中でクリエイティブの点数を高くできるのは、すごく狭いゾーンなんです。15センチ四方くらい。なので、考える範囲をできるだけ狭くするのがクリエイティブ・ディレクターの仕事です。何を突破すればフレッシュなクリエイティブになるかを規定する仕事ですね。

 新しさとは、今までの歴史的コンテキストを裏切るということです。ただそれは、タイトルにあるように“3ミリ”でよく、300ミリだと、逆に誰にも伝わらない。オリジナリティを信じすぎるのは未熟かつ危険なことだと思います。

龍崎 本当にそう思います。新しさは3ミリでいい、でもその3ミリこそが大きな違いを生む。歴史へのレファレンス性の話でいうと、「九州新幹線全線開業」のCM、元ネタが1970年代の“I♥NY”のキャンペーンと知ったときはびっくりしたのですが、あれはNYの治安をよくするプロジェクトだったわけですよね?

古川 当時のNYは財政赤字で犯罪がはびこる街。“I♥NY”は、これをなんとかしなければと立ち上がった市長が仕掛けた、市民みんなを巻き込んで素敵な街を取り戻そうとした広告史に残る大キャンペーンです。ただそれが自分のアーカイブから引っ張り出されたのは、「今回は広告ではなく祭りをつくろう」というコア・アイデアをまず考えたからです。要は「祝祭性」ですね。鉄道のキャンペーンによくある叙情的なものではなく叙事的な表現、開業というできごとをそのまま表現したいと考えました。

龍崎翔子氏

龍崎 「祝祭性」を抽出したレファレンスの仕方が面白いですし、「考える範囲を決める」という方法論もすごくユニークです。

 以前古川さんは、将棋の羽生善治さんを例に挙げて、最終局面になぜあれだけ強いのかといえば、全部の手を検討して「これだとあと何手先で詰む」と徹底的な消去法をして、一番リスクが低そうな一手を指している。一般人が見ると不可解な一手に見えるけれど、ものすごくロジカルな消去法をしていて、結果としての一手が「非連続」に見えるのだ、と指摘していました。

 それは、クリエイティブジャンプの本質にも通じる話だと思いました。外から見ると、アウトプットが天才的閃きに見えるけれど、「これは違う、あれも違う」という消去法を徹底してロジカルにやっているからこそ、残った一手が最高に光る。