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「“考える範囲”をできるだけ狭くする」国民的CMの仕掛け人と気鋭のZ世代経営者が明かす〈最高の閃きを生む〉発想法

「“考える範囲”をできるだけ狭くする」国民的CMの仕掛け人と気鋭のZ世代経営者が明かす〈最高の閃きを生む〉発想法

龍崎翔子×古川裕也

source : ライフスタイル出版

genre : ビジネス, 読書, 社会, 働き方, 企業, , 娯楽, 経済

note

 気鋭のZ世代経営者で、初著書『クリエイティブジャンプ』が話題を呼ぶホテルプロデューサー龍崎翔子さんと、九州新幹線全線開業、ポカリスエット「ガチダンス」シリーズなど数々の国民的CMで知られる広告クリエイティブ界のレジェンド、古川裕也さんの初対談が実現。明日からの仕事が変わる発想法の極意とは?

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龍崎翔子氏(左)と古川裕也氏(右) 撮影・細田忠(文藝春秋)

「必勝法はない。でも多勝法はある」

龍崎 今日は、私が物心ついたときから慣れ親しんでいたCMを数多く手がけてこられた広告クリエイティブ界の大御所、元電通の古川裕也さんをお招きしています。

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古川 よろしくお願いします。

龍崎 2人のそもそもの接点から説明させていただくと、私が大学生の時、電通の「アイデアの学校」というインターン生向けの講座に参加していました。そのクリエイティブ講座の座長が古川さんの元部下の方で、いわば間接的に古川さんのエッセンスを早くから学んでいたわけです。

 そして1年ほど前から、私がある先生が主宰する哲学ゼミに参加するようになって、そこで偶然会ったのが古川さんでした。

古川 思わぬところで出会えて良かったです。その会である時、「クリエイティブジャンプってなんですか?」と尋ねられましたよね(笑)。

龍崎 そう、本書の執筆に一番悩んでいた時期に、恥ずかしげもなく直球で尋ねたことがありました。非常に印象的だったのが、「クリエイティブジャンプに必勝法はない。でも多勝法はある」。そして「常識を裏切ることがすごく大事」という答えでした。

 そうした言葉に深くインスピレーションを受けつつ、自分自身がやってきた事業を振り返って生み出したのが『クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術』でした。

古川 お役に立ててよかったです。著書から僕も教えられることが多かったです。1行に集約すると、ホテルに宿泊した方の感想で「世界観がゆっくり身体に染み込んでくるような感覚だった」と書かれていた箇所。これは、クリエイティブ・ワークとブランディングの本質を表現していて、お客さんからこういう言葉が出てくる仕事こそ優れたクリエイティブだと思ったんですね。

龍崎翔子氏

龍崎 すごく嬉しい感想です。別のあるお客さんは「龍崎さんがそこにいないのに、まるでそこにいるかのような手触りを感じられた」と宿泊の感想をいってくださって、感激したことがあります。

リスペクトされるブランドをつくるには?

古川 ブランディングとは、みんなにその世界観に賛同してもらって、それがアタマではなく身体に浸透していくかどうか。僕たちの仕事でいうと、一括りに広告といってますが、アドバタイジングとプロモーションは完全に別の仕事です。

 プロモーションは、今日、明日の売上を立てるためのもので日本の広告の多くがそうですが、アドバタイジングとは本来、ブランドを時間をかけてつくっていくこと。すべてに先立ついちばん重要なことは、商品やサービスの奥にある企業の哲学。自分たちは何者で、世界に対してこういうふうに考え向き合っているという“態度”のようなもの。流行りの「パーパス」が拠って来たるおおもとの哲学、パーパスよりひとつ上位の概念です。ここが世界の中に打ち立てられないと、リスペクトされるブランドはできない。

 そんなふうにみんなの身体や心に「自分たちは誰か」を残していくのがブランディングで、僕たちの仕事の本質です。ただ、同じブランディングといっても、経営と広告とでは同じところと違うところがありますね。