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 アカデミー賞の舞台では、数々の俳優や映画関係者らが、政治的スピーチを行ってきた。影響力のある著名人が時流に応答することで、人々を鼓舞してきた。だが、パレスチナでの民族浄化を行うイスラエルを非難することについては、消極的な姿勢が目立っている。

ヘス邸の子供部屋 ©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

 もちろん、ナチスドイツが行ったホロコーストから普遍的な教訓を見出そうとする行為は、その蛮行の相対化から距離を置かれなくてはならない。だが、氏のスピーチは、「反ユダヤ」ではなく「反差別」であり、「反イスラエル」ではなく「反虐殺」であるというスタンスが明確であり、トーンも的確かつ穏当であった。

今起きている事象から目を背ける人の関心領域は…

 ガザは「天井のない監獄」とも呼ばれているように、物理的な壁で覆われている。ヨルダン川西岸地区への入植は、イスラエルの一部の人々を「豊か」にしている。

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 現代世界の攻撃性から目を背ける場合、あるいはヘス一家の素行を人ごとで済ませる場合、その人の関心領域は、あくまでスクリーンの手前で止まってしまうといえる。

 人間性を制限し、放棄する姿を冷たく突き放して映し出した『関心領域』。映画に対しては観察者で居られたとしても、現代の事象においてまで、無辜の傍観者ではいられない。どこまで、何を読み取るのか。強く問う力作だ。

 

『関心領域』
STORY
 空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがっている。
 時は 1945 年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)ら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。
 しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる…。
 第96回アカデミー賞国際長編映画賞、音響賞、第76回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。

STAFF&CAST
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー/出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー/原作:マーティン・エイミス/2023 年/アメリカ・イギリス・ポーランド/105分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/5 月 24 日全国公開