「昔から『酒は百薬の長』といわれるように、飲酒は心臓を守ることにもつながるといえるでしょう。ただし、お酒を百薬の長にするためには…」
上皇陛下の執刀医も務めた有名医師が教える「正しいお酒の飲み方」とは? 心臓血管外科医の天野篤さんの新刊『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー/講談社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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ビール1日500ミリリットルで、心血管疾患のリスクが減った米国の調査
適度な飲酒をしている人は心臓発作が大幅に少ない――。
米国でそんな研究結果が報告されました。マサチューセッツ総合病院の研究グループが約5万3000人(年齢中央値60歳、女性60%)を3〜4年にわたり追跡調査したところ、軽度/中度のアルコールを摂取していたグループは、アルコールを摂取しない人や摂取量が少ない人と比較して、心血管疾患のリスクが21.4%減少していました。
ちなみに今回の研究での軽度/中度のアルコール摂取は、男性が1日ビール500ミリリットル、女性は250ミリリットルまでとされています。
この研究では併せて脳の画像検査も行われ、軽度/中度のアルコールを摂取していたグループは脳の扁桃体でのストレスシグナル伝達が低下していたといいます。研究者は、「軽度から中程度のアルコール摂取が扁桃体の活動を抑制する神経生物学的な影響を及ぼし、それが心血管の保護効果をもたらす可能性をはじめて示した」としています。今回の研究対象になった5万3000人は“素養”がはっきりわからないため、これといった基礎疾患がなく、もともと心臓血管疾患のリスクがとても低い健康な人たちがサンプルになっている可能性があるので、結果をうのみにするのは注意が必要です。
ただ、それでも「適度な飲酒がストレスを緩和し、心臓にとってプラスに働いた」と考えられるのはたしかです。
アルコール効果はストレス解消、利尿作用による心臓への負担の軽減か
実際、ストレスは心臓にとって大敵です。ストレスを受けると交感神経が優位になり、興奮にかかわる神経伝達物質のアドレナリンが通常以上に分泌されます。アドレナリンは少量でも心拍数を増加させたり、血流を増やして血管を収縮させたりするため、血圧が上昇します。それだけ、心臓の負担が増えてしまうのです。さらに、ストレスによって炎症細胞が放出され、過剰になると血管を障害して動脈硬化の一因となるプラークができたり、動脈瘤を形成したりすることもわかっています。
適度な飲酒による心臓へのプラス効果はほかにも考えられます。アルコールには利尿作用あって、飲酒量以上の水分が体内から尿として排出されるといわれています。ただ、アルコールの摂取量がそれほど多くなければ、同時に摂取する水分の量が増えている場合もあり、それなら体が脱水状態に傾くケースは少なくなります。